2024年04月20日( 土 )

検察の冒険「日産ゴーン事件」(7)

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青沼隆郎の法律講座 第20回

法に疎い国民相手に暴走する検察 

(1)呆れた検察御用達の朝日新聞
 朝日新聞は11月29日付朝刊の一面で秘密にされていた「報酬合意書」の存在を報道した。これはもちろん、検察の「(闇の)確定した役員報酬がある」というリークによる世論操作の流れにそった報道である。ただし、同日付の日刊スポーツ19面にはゴーンがかかる合意書にサインはしていないと供述している旨の報道もある。

 このような法律的には無意味な馬鹿げた文書が存在することは、かなり前からゴーンに対して罠が仕掛けられていたことを示している。ここまでくれば、ゴーン事件は周到に用意された陰謀によるクーデターと断定する他ない。

(2)法的にはまったく無意味な「報酬合意書」
 役員報酬の決定権者は取締役会であり、取締役会がゴーンと契約を交わしたのならいざしらず、事務的な役員報酬所轄部署にすぎない秘書室(幹部)といかなる報酬合意書を契約しても何の意味もない。会社の仕組みのイロハくらいは知っているゴーンがこのような契約書にサインするはずがない。しかし、こうした無意味な文書であっても、ゴーンが闇の後日払いの確定役員報酬支払契約を締結していた、とする証拠として、検察がゴーンを有価証券報告書虚偽記載罪で検挙逮捕した後には、あたかも動かぬ証拠として世間に公表する価値は十二分すぎる程ある。しかし、これは同時に周到に用意された罠であることも見事に証明している。

 噴飯ものは、検察はこの闇報酬契約の作成担当者である秘書室幹部と司法取引を行って一件資料証拠を入手したと報道されていることである。秘書室幹部は何という刑事犯罪の被疑者で、サインもしていないゴーンは何という刑事犯罪を犯したというのか。

 面白いことは、この幹部が、当該秘密報酬合意書によって、秘密の役員報酬が確定していると供述したと報道されていることである。検察はこの幹部による独善の「確定説」に従って、「確定した役員報酬がある」としているのなら、東京地方検察庁の検察官は全員懲戒解雇に値する。日本の検察の信頼を地に貶めるこれ以上の恥知らずな行為はない。

 念の為、会社の仕組みのイロハである会社から支払われるすべての報酬、すべての債務弁済の最終決定権者・承認者は取締役会であることを確認しておく。内部組織部署の役員報酬事務を所轄する秘書室に役員報酬の最終決定権など存在せず、従って、個別の取締役と役員報酬契約を締結する権限などどこにも存在しない。日本の検察がこんな馬鹿げた理屈でゴーンの「隠された確定役員報酬」の存在を認定したのなら、世界の笑いものになることは必定である。

(3)読売新聞の報道
 そもそもゴーンが逮捕された瞬間の自家用ジェット機でのインパクトがあるシーンを独占的に撮影した朝日新聞への検察の特別待遇に比べ、何のアメももらっていない読売新聞や毎日新聞の報道は冷ややかである。同日付の読売新聞の朝刊39面(いわゆる3面記事)では「記載不要、金融庁に確認」とケリー容疑者の供述を報道した。つまり、検察の「記載必要。よって虚偽記載罪」との嫌疑理由を真っ向から否定する記事を掲載した。

 テレビに登場するほとんどの識者、専門家が今では誰1人検察の「記載必要論」を支持していない中、大新聞である朝日の検察に義理を尽くす報道がいつまで続けられるかは注目に値する。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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