2024年03月28日( 木 )

SB通信障害によって露呈した、利便性の裏に潜む脆弱性

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 6日の午後から約4時間半にわたって、ソフトバンクで通信障害が発生。障害は日本全国におよび、スマートフォンなどの携帯電話サービスだけでなく、固定電話サービス、自宅・家庭用Wi-Fiサービスでもつながらない、もしくはつながりにくい状態が続いた。原因は、スウェーデンの通信機器大手「エリクソン社」製交換機のソフトウエアでの異常の発生だというが、その影響は日本のみならず、英国などの世界複数国で同時におよんだとされる。

 今回の通信障害による不便さを実体験して、今から約10年前に公開されたあるアニメ映画を思い出した。ストーリーの詳細は割愛するが、同映画の舞台ではインターネット上に世界中の人々が集う仮想世界が築かれており、人々はパソコンや携帯電話、テレビなどを通じてその仮想世界にアクセスすることで、ショッピングやゲームだけでなく、納税や行政手続きなどを含めたさまざまなサービスを利用できるというものだった。だが、現実世界の各種インフラ設備の制御まで、その仮想世界に密接にリンクさせてしまっていたことで、悪意をもったAI(人工知能)によってシステムが乗っ取られると、現実世界はたちまち混乱の渦に――。さらに、その悪意のあるAIが人工衛星を意図的に地上の核関連施設に落下させようとしたことで、世界規模の核災害を引き起こしかねない事態にまで陥ってしまうという展開だった。

 現在、通信インフラを含めた技術の発達により、我々の生活は以前からは考えられないほど便利になった。とくにスマートフォンの登場と普及によって、ネットを通じて場所を選ばずにさまざまな利便性を享受できるようになったほか、便利な外部記憶装置として活用することも、もはや当たり前になっている。スケジュール管理や電話番号の記憶なども、手元の小さな端末(スマホ)に任せっきりだ。今後、AIやIoT(モノのインターネット)などに代表される新たな技術革新がさらに進めば、前述の映画の世界をはるかに超えた次元のものが現実化するのも、そう遠くないかもしれない。ただしそこには、ある種のリスクを孕んでいることを忘れてはなるまい。

 1つのシステムにのみ依存するのは、効率性の観点からいえば、たしかに合理的な選択だろう。だが、今回の通信障害が示したように、その効率性・利便性が絶対に毀損されないという保証は、誰にもできまい。今回の通信障害の原因とされるエリクソン社製交換機のソフトウエアの異常だが、もしこれが仮に人為的に引き起こすことも可能だったとしたらどうだろうか――。あまり陰謀論的な話は好きではないが、映画のなかのAIの事例のように、悪意ある者の外部もしくは内部からのシステムへの介入により、世界規模の通信障害を意図的に引き起こすことも可能ということが示されたことに、今回のケースはなりはしないだろうか。

 これは、何も通信インフラに限った話ではない。電気の発電・送電システムに障害が発生すれば、電力供給がなされることを前提に成り立っている都市機能や人々の生活は途端に麻痺するだろうし、水道インフラや交通インフラが機能しなくなっても、多大な影響が発生することは必至だ。それも、先に述べた人為的な原因でなくとも、近年頻発しているような大規模な自然災害などによって、こうしたインフラ機能が簡単に破綻させられてしまうことを、我々は身に染みてわかっているはずだ。
 現在、我々が漫然と享受している文明による利便性だが、それが薄氷の上に成り立っているという可能性も否定できないのではないか。それを踏まえたうえで、1人ひとりが想定し得るリスクに備えておくことも、必要なのかもしれない。

【坂田 憲治】

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