2024年04月19日( 金 )

ストック活用により新たな価値を生み出す 現代における新たなかたちの『家守』(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)北九州家守舎 代表取締役 遠矢 弘毅 氏

敷地に価値なし、エリアに価値あり

 ――ここ小倉・魚町の人の流れの変化については、いかがですか。

中屋ビル1階の「メルカート三番街」

 遠矢 魚町の人通りの量は、おそらく2010年ごろが底値だったと思います。その後、我々が直接手がけた事業ではありませんが、中屋ビルの1階部分に「メルカート三番街」が11年6月に先行してできて、若い人たちが入ってきました。また12年4月にはビル2階部分に「ポポラート三番街」ができて、街中でありながら、クリエーターの方々がショップ兼工房のようなものをもてるような集積場所ができました。ほかにも「ビッコロ三番街」や「秘密基地」「Tanga Table」など、さまざまなリノベーション事例が次々と登場し、まちとしても層が厚くなってきたというか、若い人たちにも「ここで商売ができるんだ」というような意識ができてきて、今では魚町に多くの飲食店などが軒を連ねています。

 またそれと同時に、我々がつくった「コワーキング&シェアオフィス」みたいなものと似たようなものが、このまちにも少しずつ増えてきています。こうしたものがいろいろとできてくると、人が集まりますし、そうすると消費が生まれ、何らかの経済活動も活発になっていきます。

 ただし、ここで忘れてはならないのは、我々がこうして存在できているのは、まちのためを思ってくれている不動産オーナーさんが多くいらっしゃってくれたことが大きいということです。そういう人がいないと、我々も簡単には活動できません。

 ――そういうオーナーの方が、小倉・魚町には多くいらっしゃるのですね。

 遠矢 結局のところ、まちが衰退していくと、自分の所有している物件の資産価値も毀損してしまうということを、皆さまわかっていらっしゃるようです。そのため、自分のことだけを単体で考えるのではなく、魅力的なまちにするために、エリアで考えよう―と。

 もともと「小倉家守構想」を考え、その中心となっていた清水義次さんという方がいるのですが、その方がいつもおっしゃっているのが、「敷地に価値なし。エリアに価値あり」ということです。建物単体で見たところで、結局のところその家賃を決めるのは、そのエリアが人気のエリアかどうかで、人気エリアというのは、商売ができるエリアかどうかということ。そのエリアで経済が成り立つからこそ、そこに人がきて、それでまちが元気になっていくのです。

多世代が集まる魅力的なまちへ

 ――今後の小倉・魚町でのまちづくりの未来図については、どのように描いていらっしゃいますか。

 遠矢 これまで我々は、まちのことを考えてくれる不動産オーナーと一緒に、建物などのリノベーションによるまちの再生をやってきました。ただし、まちを見たときに、実は一番の不動産オーナーは行政機関なんです。道路・公園・河川など、たくさんの不動産を有していますので、「これをどうにかしていきましょうよ」ということを北九州市と一緒になってやれないかと、今は模索しているところです。

 ――最後に、今後は全国のどの地方都市でも人口が縮小していくことが予想されるなかで、まちづくりをどのように進めていくべきか、ご意見をお聞かせください。

 遠矢 今、大手企業でも「副業OK」みたいな流れになってきていますが、おそらくこれからは、働き方というものがどんどんと変わってくると思います。今のコワーキングやノマドのように、働く場所が固定されないことが当たり前になれば、魅力的なエリア・場所にこそ人が集まっていくでしょう。民間の不動産だけでなく公共の不動産も含めたところで、「公がやっているけれど、民間がうまく活用しています」というような流れをつくれる柔軟性があると、魅力的なまちになるのではないかと思います。そこには、「子育て」という視点も必要でしょうし、「高齢者の生きがい」みたいなものもいるでしょう。結局のところ、多世代がいないとまちにはならないのではないかと思いますね。

 北九州市の場合、とくに5市が合併していますので、50年経ってもまだ「おらがまち」感覚がそれぞれの地域に根強く残っています。とすると、北九州市の人口が減ってきている今、旧市街地である中心部に、ギュギュっと集まってきてもいいのではないでしょうか。高齢者の方の都心回帰というのも、やはり中心のほうが便利で住みやすいからです。そして郊外は若い人たちが安い家賃で住み、自分たちでどんどんリノベしたりしながら自由に使っていくような。個人的には「コンパクトシティ」なんて言いたくはありませんが、どうしてもそうならざるを得ないでしょう。ただし、地方都市の将来については、あまり悲観することもないと思っています。

(了)
【坂田 憲治】

<COMPANY INFORMATION>
(株)北九州家守舎

代 表:嶋田 洋平/遠矢 弘毅
所在地:北九州市小倉北区魚町3-3-20
設 立:2012年4月
資本金:1,600万円
URL:http://www.yamorisha.com

<プロフィール>
遠矢 弘毅(とおや・ひろき)

1967年、鹿児島県阿久根市生まれ。90年、北九州大学商学部卒業。(株)九州リクルート企画(現・リクルート)、会計事務所などを経て、2006年に(財)北九州産業学術推進機構でインキュベーションマネージャー(日本新事業支援機関協議会認定IM・22期)に認定された。現在、(株)北九州家守舎・代表取締役、(株)ユナイトヴィジョンズ・代表取締役、リノベーションまちづくり推進協議会副会長、九州ビジネスインキュベーションプラザ幹事など、数々の役職を務める。

(前)

関連記事