2024年04月19日( 金 )

糖尿病と歯周病の意外な関係~歯周病は心臓病や脳梗塞、腎臓病などの原因にも

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歯周病の治療で、血糖値をコントロールする力が改善

 食生活が原因で起こる生活習慣病の1つ、糖尿病。厚生労働省が実施した2014年患者調査によると糖尿病の患者数は316万6,000人と、前回の調査より約46万人増加している。糖尿病の予防や治療には「毎日の食生活がカギ」といわれるが、同じく食生活に関わりの深い歯周病と糖尿病は、意外な関係があることがわかってきた。

 歯周病とは、どのような病気だろうか。歯が生えている口の中は細菌などの微生物が多く、数百種類以上の目に見えない微生物がちょうど良いバランスを保つことで健康を維持している。食事をした後のハミガキが十分ではないと食べものが残り、歯と歯ぐきの境目に歯周病を引き起こす歯周病菌が住みつくプラーク(歯垢)ができる。歯周病は歯周病菌が原因で、歯ぐきが赤くなったり腫れたりする病気だ。現在、歯周病で何らかの問題をかかえているのは、成人の80%におよぶ。一方、歯周病は自覚症状がほとんどないため、かかっていることに気付きにくい病気だ。また、生活習慣や環境の変化などで体に負担がかかり、もともと体が持っている歯周病菌から体を守る力が低下することも歯周病にかかる原因になる。

 では、歯周病は糖尿病とどのような関係があるのだろう。歯周病の歯ぐきの腫れを引き起こす歯周病菌は、菌の外側の膜にリポ多糖からできた内毒素と呼ばれる毒素をもっている。歯周病菌は腫れた歯ぐきから体の中に入り、歯周病菌の内毒素は、血液中の糖分の取り込みを抑えるサイトカインを増加させる。サイトカインは血液中の糖分の取り込みを抑えるため、血糖値を下げるインスリンを働きにくくする。糖尿病は血液中の糖を体内に吸収するインスリンが働きにくくなることで、血液中の糖が増えすぎて起こる病気だ。そのため歯周病にかかることでインスリンが働きにくくなり、糖尿病が進みやすくなるのだ。

 さらに最新の研究成果で、歯周病を治療することで糖尿病の血糖値をコントロールする力を改善することがわかってきている。米国歯周病学会誌に2001年に掲載された岡山大学(当時)の岩本氏らの研究によると、歯周病を治療することで血液中の糖分の取り込みを抑えるサイトカイン(TNF-α)の増加を防ぎ、インスリンの働きを改善して、もともと体がもっている血糖値をコントロールする力を取り戻すという結果が明らかになっている。

口内の環境改善が健康維持のカギ? 

 また糖尿病の治療では、体が持っている血糖値をコントロールする力を表す指標として、ヘモグロビンA1c(HbA1c)と呼ばれる過去1~2カ月の血糖値を反映する指標が用いられている。一般的に糖尿病の基準値は、ヘモグロビンA1c 6.5%以上とされている。米国糖尿病学会誌に2010年に掲載されたTeeuw WJらの欧州などの研究によると、重度歯周病を治療することでヘモグロビンA1cが最大約1%改善されることがわかっている。ヘモグロビンA1cを約1%改善することは、英国の糖尿病予想研究(UKPDS)の報告によると、糖尿病の3大合併症として知られる網膜症と腎症と神経障害を約25%、心筋梗塞を約16%予防する効果がある。

 現在も、歯周病を治療することで糖尿病のカギとなる血糖値をコントロールする力を改善し、糖尿病の予防や治療に役立つ可能性についてさらなる研究が進められている。

 今では歯周病は糖尿病を始めとして、心臓病や脳梗塞、腎臓病など多くの生活習慣病を引き起こす原因になることが明らかになっている。それは、歯周病になると歯周病菌の内毒素や歯ぐきが腫れることでつくられるサイトカインが歯ぐきの血管から体内に入り込み、全身の健康に影響を与えるためだ。多くの場合では、口の健康と全身の健康は別物として見られがちだ。しかし口の中の環境を改善することが、全身の健康に良い影響を与えることに関心が寄せられている。健康や予防医療の観点から、口の健康と全身の健康の関わりを今改めて見直す時が来ている。

【石井 ゆかり】

<プロフィール>
石井 ゆかり

みどりの宇宙(株) 経営コンサルタント。筑波大学卒業。京都大学農学研究科修士課程修了。ヘルスケア関連メーカーに勤務後、人の健康と企業の発展に貢献したいという想いから、経営コンサルタントとして中小企業の経営支援を行っている

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