• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年01月29日 13:40

今、世界中で揺らぐ、「国家」という概念!(前)

 この2世紀にわたって続いてきた人類初のグローバル文明(「Pax Britanica(パックス・ブリタニカ)」と「Pax Americana(パックス・アメリカーナ)」)が終焉の時を迎えようとしている。次に登場する新たなグローバル文明とはどのようなものなのだろうか。中国やインドを中心とする「Pax Asiana(パックス・アシアーナ)」なのだろうか。

 年頭にあたり、高橋一生・元国際基督教大学教授に聞いた。高橋氏はOECD(経済開発協力機構)事務総長補佐官時代から、長年このテーマを研究し続けている。現在は古代最大にして人類最高の英知を集めたエジプト「アレキサンドリア図書館」顧問(初代理事)で、「リベラルアーツ21」代表幹事、日本共生科学会 副会長などの要職にある。

元国際基督教大学 教授 高橋一生氏

「国家」の概念が世界の至るところで揺らぎ始めている

 ――年頭にあたり、現在の世界を俯瞰してもらえますか。私たちは今、どのような時代に生きているのでしょうか。

元国際基督教大学 教授 高橋一生氏

 高橋一生氏(以下、高橋) 現在の世界を俯瞰するには、1648年のウェストファリア条約まで遡って考えてみる必要があります。この条約によって、ヨーロッパにおいて30年間続いたカトリックとプロテスタントによる宗教戦争は終止符が打たれ、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約束し、「新たなヨーロッパの秩序」が形成されるに至りました。近代国際法の元祖ともいうべき条約で、中世の階級構造が終わりを告げ「主権国家」が誕生しました。ヨーロッパの片隅で起こった、この「新たなヨーロッパの秩序」が、その後、 400年かけて世界に普及していきました。現在その主権国家の概念が世界の至るところで揺らぎ始めています。

 その具体的なかたちが今世界中で起こっている社会の「分断」です。分断は、具体的には「貧富の格差」「民族間の争い」「宗教間の対立」などのかたちをとります。しかし、その根っこの部分には「主権国家」の崩壊があります。

ドラマチックに出現、「ブレグジット」と「ポピュリズム」

 最もわかり易く、かつドラマチックに出現したのが英国のEU離脱「ブレグジット(Brexit)」と、近年吹き荒れている、「エリート」を「大衆」と対立する集団と位置づけ、大衆の権利こそ尊重されるべきだとする政治思想「ポピュリズム(populism)」です。ポピュリズム運動は今、国家を突き抜けて連携しています。

 また、昨今話題になっている、「米中間の覇権争い」もこの延長上に位置づけることができます。中国共産党指導部もホワイトハウスも、「国家としてこのまま成り立つのであろうか」という思いが根っこの部分にあり、お互いに無理に無理を重ねている状況にあります。

「国の政策にどれだけ意味があるのだろうか」という状況に

 国家はその背景に(1)「歴史観」、(2)「言語」、(3)「身体的」(白人、黒人、黄色人種など)、(4)「宗教」(日本は外からは日本教と見られている)があります。そして、これらを、成り立たせているのが「民族」であり、そのうえに「公権力」があります。その民族と公権力を結びつけるのが幻想共同体としての民族国家です。この民族国家が近代の主権国家の前提であり、その前提が根底から揺らぎ始めています。

 世界中で社会の根底を揺るがすような事件が起こった場合、「何かがおかしい」と考えた人はこれまでも多くいました。しかし、「国家」という概念そのものを疑問視することはほとんどありませんでした。しかし、現在私たちは「国家」という概念そのものをもう一度考え直してみなければならない状況になっています。

 企業活動においては、一見市場がすべてのように思えますが、企業家が何か経営判断をする場合、当事国の政策は非常に重要な要素です。しかし、現状では「その国の政策はどれだけ意味があるのだろうか」という状況になりつつあります。たとえば、経済政策を打つ時、通常はどういう税制を引けば、国民がどういう消費行動をして、どういう結果が生まれるかが、経済学上ではわかることが前提になっています。しかし、現在のように「国家」の概念そのものが揺らいでいる状態では、公権力と社会の関係も今までとは違ったものになり、政策の発動が想定した通りの結果に結びつかなくなってきました。世界のどの国も政権が打つ政策が、その通りに進まずにジタバタしている状況にあります。

主権国家そのものがいつ吹き飛んでもおかしくない状況に

 今まで申し上げてきたことは、DAC(OECD開発援助委員会: 先進国が開発途上国に対して行う経済援助の拡大と効率化を目標とし、援助の額と質について定期的に検討する組織)の課題のなかにもはっきり表れています。2007年(12年に改訂)に作成された政策課題は、「50カ国ほどある脆弱(vulnerable)国家というものに対してどう対処すべきか」というものです。今はまだ震度2ぐらいですが、震度5などの激震が走れば、第2次世界大戦後に生まれたこれら50カ国の主権国家はいつ吹き飛んでもおかしくない状況にあることが心配されています。

 私がOECDの事務総長補佐官時代(1979~87年)のDACは「ベイシック・ヒューマニーズ(Basic Humanity needs)」、すなわち「国民の基本的なところを満たすためにはどうしたらよいのか」などが主たる問題意識でした。当時は第二次大戦後誕生した約120の国家にはまだ湯気が立っていて、現在のような政策課題が生まれることは想像さえできませんでした。

(つづく)

【金木 亮憲】

【略歴】高橋一生(たかはし・かずお)
 元国際基督教大学教授。国際基督教大学国際関係学科卒業。同大学院行政学研究科修了、米国・コロンビア大学大学院博士課程修了(ph.D.取得)その後、経済協力開発機構(OECD)、笹川平和財団、国際開発研究センター長を経て、2001年国際基督教大学教授。
東京大学、国連大学、政策研究大学院大学客員教授を歴任。国際開発研究者協会前会長。
現在「アレキサンドリア図書館」顧問(初代理事)、「リベラルアーツ21」代表幹事、「日本共生科学会」副会長などを務める。専攻は国際開発、平和構築論。主な著書に『国際開発の課題』、『激動の世界:紛争と開発』、訳書に『地球公共財の政治経済学』など多数。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2019年08月19日 15:40

マツキヨHD、ココカラファインと経営統合の協議開始NEW!

 (株)マツモトキヨシホールディングス(本社:千葉県松戸市、松本清雄社長)と(株)ココカラファイン(本社:神奈川県横浜市、塚本厚志社長)が経営統合に向けた協議開始に関...

2019年08月19日 15:06

西日本新聞の柴田建哉社長殿、貴方は社を復活させる覚悟がありますか?(1)NEW!

 まずは弊社が発刊するI・Bの2019夏季特集号の巻頭文「『人口減』の先に待ち受ける、激変時代 企業の命運は朽ちるのか、あるいはいかに発展させるのか」を参照されたし。

2019年08月19日 14:51

フージャース、大分で99戸新築マンションNEW!

 大分市中島町2丁目で、まもなくマンション新築工事が始まる。物件名は「デュオヒルズ大分中島」で、地上15階建の総戸数99戸のマンション。建築主は(株)フージャースコー...

2019年08月19日 14:40

『脊振の自然に魅せられて』「夏だ! 沢登りの季節がやってきた」NEW!

 今年の夏は例年より暑さを感じます(加齢のせいもあり)。こんな時期の山旅は沢に限ります。福岡市早良区飯場に福岡市で唯一の大型渓谷「野河内渓谷」があります。この渓谷は井...

2019年08月19日 14:22

ライオンズクラブ337-A地区 明るい未来をつくるために(1)NEW!

 世界最大級の奉仕団体として知られるライオンズクラブ。同クラブは、『We serve』─「ライオンズクラブを通じて、ボランティアに社会奉仕の手段を与え、人道的ニーズを...

2019年08月19日 13:00

人間に死を選ぶ自由は存在しないのだろうか(前)NEW!

 NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(2019年6月2日放送)を見た。ある女性が全身の身体の機能が奪われる「多系統萎縮症」という回復の見込みのない難病と宣告され...

2019年08月19日 11:26

日韓の経済力格差は?(前)NEW!

 筆者は1981年に日本に留学する機会を得た。日本は1954年から1973年までの19年間、実質GDP成長率が9.3%という驚くべき成長を記録し、いわゆる高度成長を経...

2019年08月19日 10:50

海洋資源大国・日本の生きる道:海底に眠るレアアース泥でエネルギー革命を!(後編)NEW!

 「水を制するものは、世界を制す」。これが21世紀の資源争奪戦の現実である。狭い国土に人が密集しているが、石油などエネルギー資源の乏しい国。必要なエネルギー源の9割を...

2019年08月19日 10:39

【政界インサイダー情報】カジノ管理委員会の人事等、設立の準備が進むNEW!

 政府は今秋の臨時国会において、内閣府大臣官房の指揮下、カジノ管理委員会設立に向けた人事案を提出するとのことで、来年度の具体的な実行に向け、着々と準備が整っている。全...

2019年08月19日 10:05

HIS、ユニゾHDの敵対的買収に発展~それぞれが抱える表に出せない裏事情(前)NEW!

 ホテル事業などを手がけるユニゾホールディングス(HD)は8月6日、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が実施中のTOB(株式公開買い付け)に対し、取締役会として反...

pagetop