2024年04月20日( 土 )

AI問診票で病院の待ち時間を短縮~AIによる病名予測まで

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医師の残業理由の第1位は「カルテなどの書類作成」

 近年、医療業界における「過労」問題が注目されるようになった。2018年版の過労死等対策白書によると、月の残業時間が80時間を超える勤務医がいる病院は20.4%、100時間を超える勤務医がいる病院は12.3%だ。医師の残業が発生する理由としては、第1位に「診断書やカルテなどの書類作成」57.1%が挙げられる。

 「ヘルスケアIT2019」展(1月23~24日/UBMジャパン主催)でもこの問題は注目を集め、医師の長時間勤務を解決する方法として、医師の業務分担やテクノロジーの活用が提案された。

 Ubie(株)共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏の講演によると、人工知能(AI)を使った問診票の活用で、医師業務の負担を減らす効果があるという。

AIを用いたタブレットの問診票で、初診のカルテ記入時間を短縮

 AI問診票の「AI問診Ubie」は、患者がこれまで紙の問診票に記入していた症状や健康状態などを、タブレットの画面をタッチ入力して問診を受ける仕組みだ。Ubieの阿部氏とエンジニアの久保氏は共同でAIを用いた病名を予測する方法(アルゴリズム)を開発し、実用化した。患者の年齢や性別や症状などを基にAIが可能性のある病気と関連する質問を作成し、1人ひとりの回答を受けて自動的に質問が表示される。通常の初診の診察では、紙の問診票を使って待合室で事前問診を行い、診察室で口頭問診を行い、電子カルテ入力に入力する。Ubieでは患者がタブレットで入力した症状などの情報をコピーして電子カルテを作成することで、初診のカルテ入力時間を短縮することができるという。

問診時間が約3分の1になるという結果も

 AI問診Ubieを導入している東京都江戸川区の目々澤醫院では、これまでの紙の問診と診察室での医師の問診にかかる時間を、約3分の1に短縮した。厚生労働省の2017年受療行動調査によると、病院での診察までの待ち時間は「30分以上」が50%以上を占める。問診時間の短縮によって患者の待ち時間を減らし、初診時の電子カルテ記入の作業負担を減らすことができれば、患者と向き合ってヒアリングする時間を長くとることもでき、医療の質の向上が期待される。当然、医師の残業時間を減らすという効果もある。

気になる症状を医学的に解釈し、AIが病名を予測する

 AI問診Ubieの実用化にあたっての課題は、普段タブレットをあまり使用しない患者にも使いやすくわかりやすい画面にすることだったという。たとえば、患者が医師に症状を伝えるところにも工夫がある。頭が「ズキンズキン」と痛むという感覚的な言葉を医学的に解釈し、「頭痛」などの症状に置き換えることだ。そして医師側の画面では、患者がタブレットで入力した問診結果とともにAIが可能性のある病名を予測した参考病名リストが表示される。そのためAI問診票を取り入れることで、電子カルテの記入作業量が半分程度になるという。

総合受付での患者の科の振り分けにも活用

 現在、AI問診Ubieは70件以上の病院やクリニックで利用されている。日本海総合病院では、Ubieを問診票の記入のほかに、総合受付で患者の各科への振り分けにも利用している。「この症状の場合にはこの診療科」とAIが学習し、振り分ける仕組みだ。現在、病院の紹介状をスキャンして自動で取り込みができるシステムを研究開発中だという。

<プロフィール>
石井 ゆかり

みどりの宇宙(株) 経営コンサルタント。筑波大学卒業。京都大学農学研究科修士課程修了。ヘルスケア関連メーカーに勤務後、人の健康と企業の発展に貢献したいという想いから、経営コンサルタントとして中小企業の経営支援を行っている

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