2024年04月24日( 水 )

創造的破壊という積極対応(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

北海道発新形態

 【図】はアークスのホームページにある東北2県と北海道の市場占有率である。限られた地域でシェアが高ければメーカーとの仕入れ価格の交渉や物流に大きな優位性が生まれる。

【図】東北2県と北海道の市場占有率

 アークス・横山会長はよく「縮小のなかの拡大」という言葉を口にする。市場が縮小するなかでもシェア拡大は存在する。たとえば、最近とくに食の部分に力を入れ始めたDS(ドラッグストア)、出店により販路を拡げるCVS(コンビニエンスストア)、そしてEコマース。これらは市場縮小のなかで拡大している業態である。もちろん、大手のM&Aや出店も単店舗売上の高低は別にして拡大ということができる。これは従来型既存店舗で最も重要な立地の崩壊が発生するということだ。

 もう1つは販売ボリュームである。これはあらゆる効率に大きく影響する。たとえば、北海道の北の稚内にあるA社と青森の南部にあるB社が合併してその売上が2倍になっても物流的に考えればメリットはない。これはメーカーや卸にとっても同じである。つまり単純な規模拡大連合による効果はないということである。

 アークス10社の場合、北海道と青森、秋田のエリア連合である。アークス主力3社のエリアシェアはそれぞれ25~40%を占めている。このボリュームと隣接していることによる配送コストの低減こそが大きな連携効果を生んでいるのである。

 飛び地の管理が困難を極めるのはなにも国家のことだけではない。小売業にも同じことがいえるのである。戦国大名が領地にたくさんの出城を築いて戦闘力強化を図ったのも、織田信長が方面軍制度で全体の連携と効率を図ったのも同じ理屈である。ここから横山会長の北、中、西のエリア別連携分離の発想は生まれたといってもいい。ただ、肝心なのは同じような構図をそれぞれの地域で構築できるかどうかだ。

 農林水産省の推測値では食品小売業を介して販売される食料品を年間50兆円としているが、10%経済圏の九州に当てはめれば5兆円ということになる。さらに九州の物価と産地特性を考えると4兆円を割る程度の市場ということになるだろう。リテールパートナーズの(株)マルミヤストア、(株)マルキョウ、(株)丸久の売上は合計で2,000億円余りである。坪効率も良いとはいえない。山口本拠の丸久を除けば、その売上は約1,000億円。九州のシェア率は3%に満たない。北海道・東北のアークスのグループと比較すると大きく見劣りがする。問題はリテールパートナーズが地域1兆円構想に向かってどう行動するかだろう。九州には有力な私鉄系や独立系のスーパーもあるが、それを糾合してイオンやDSに対抗する勢力をつくれるかどうかだ。それにはSMだけでなく、有力DSとの連携も考えなければならない。SMと違い、DSは狭い商圏に低いコストで出店できるからだ。さらに、今後の競争には従業員不足やIT投資の問題も絡む。これらの問題を考えると従来型も規模だけの抗争での合従連衡では心もとない。一言でいえば、業態を超えた連携も必要ということだ。

 それはともかく、広範な連携には、信頼と自己責任ではっきりした権限を確立し、それぞれの得意分野を共有することが大切だ。とくに九州の小売企業はそれぞれが強力なオーナーシップで成長してきた。強力なオーナーシップは時に連携相手との間に疑心暗鬼を生む。アークスの場合、それぞれの企業が思い込みを捨て、連携を密にする会議の場を定期的につくり、得意分野を共有することを触媒にしてさらなる効果を追求するというやり方をとっている。「即・個・加(即効果)」とその効果を横山社長はそう表現する。

 アークスが目指すのは地域シェアの50%。そうなればあらゆる面で企業は強くなる。いずれにしても企業にはまず、従業員の職場を正常な状態で確保する責任がある。従業員にはもともと自分が働いてきた企業への小さくない帰属意識がある。現場のすべては従業員のレベルにかかっていることを忘れてはならない。ここに目を向けないと重要な経営資産の1つである従業員の士気やロイヤルティ(忠誠心)を失いかねない。

 大きな組織のリーダーには仲間の話をよく聞き、共鳴し、感動する。権力志向も極めて希薄であることが求められる。

○企業文化、自主性は尊重する
○経営陣にはそのまま残ってもらう
○営業スタイルは変更しない

 これは企業統合にともなうアークスの基本方針だが、今後はこれに加えて思い切った既存店舗改善やIT投資が求められるのだろう。

 八ヶ岳連峰経営の大きな展望であるグループ売上高1兆円。その戦略の下で九州・山口、中部の連携がスタートした。地域は離れているがグループ売上はとりあえずの目標1兆円になった。これがさらに進み、連携地域が広がれば国内食市場の10%の占拠率も夢ではない。

 全国の業界を俯瞰すると、協業の傾向は全国で確実に芽生え始めている。社会(経営者も含む)の高齢化やオムニチャネルの進行、人口減少など今後の市場事情を勘案すると小売業の再編はこれからさらに加速せざるを得ない。

(了)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

(3)

関連記事