2024年04月16日( 火 )

【特別レポート】九電工関係者による傷害致死事件の真相を探る~「空白の15時間」をめぐり、囁かれる噂(1)

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昨年9月、長崎県五島列島の北端に浮かぶ小さな島で起きた傷害致死事件。加害者とされる男性が自首したにもかかわらずなぜかすぐに釈放され、いくつも不明な点が残されたまま捜査が進展している様子もない。遺族らはやりきれない気持ちを抱え、「疑い出したらきりがない。何を信じていいのかわからない」状態でほったらかしにされたままだ。現地マスコミがまったく報じない、不可解な事件の背景を追った。


「忘れられた島」で起きた事件

 長崎県・五島列島は祈りの島々。世界遺産にも登録された隠れキリシタンの教会が数多くあり、観光地として注目を浴びている。そんな盛り上がりからすれば、この島は五島列島のなかでも、「忘れられた島」といえるのかもしれない。

佐世保市の沖に位置する宇久島

 五島列島の北端、東シナ海と日本海の境界付近にあるのが、行政区分上は五島市ではなく佐世保市に属する宇久島だ。人口は約2,500人。島の全周は40kmほどで、1時間もあれば車で島のあらかたを見ることができるほどの小さな島だ。豊饒な漁場として知られる五島灘を臨むものの、近年島を支える産業は主に畜産だという。ブランド牛である五島牛が1400頭ほど繁殖・飼育され、全国の和牛産地に出荷されている。佐世保港からは1日5便ほど、片道約2時間の高速船やフェリーが出るほか、深夜に博多港から出航するフェリーは4時間かけて島と大都会・福岡を結ぶ島民の貴重な足だ。

 ゆったりと時の流れる島の一日を揺るがす「大事件」が起きたのは、昨年9月11日のことだった。当時、事件の第一報を伝えた地元民放局の記事はすでに削除されているが、「傷害致死容疑で派遣社員の男を逮捕」と見出しのついた記事は次のように続いていた。

〈2018年9月16日配信〉=同僚の男性を殴るなどして死亡させた疑いで佐世保市の男が逮捕されました。傷害致死の疑いで逮捕されたのは佐世保市宇久島の派遣社員I.S容疑者(51)です。警察によりますとI容疑者は今月11日宇久島の宿舎で同居する同僚のNさん(56)に殴る蹴るなどの暴行を加えて転倒させ死亡させた疑いがもたれています。Nさんは翌12日の午後2時ごろに意識不明の状態で町内の病院に搬送され死亡が確認されました。死因は頭を強く打ったことによる外傷性脳障害でした。I容疑者は当時、酒を飲んでいたということです。警察の調べに対しては「殴って転倒させた」と容疑を認めています。警察は2人の間にトラブルがなかったかなど暴行に至る経緯を調べています。
(註:報道当時はイニシャルではなく実名報道されていた)

宇久島の玄関口、平港

 小さな島で起きた、島では珍しい物騒な事件ではあるものの、通常なら新聞のベタ記事程度の「取るに足らない小さな事件」のはずだった。しかし、この事件発生直後から島民の間ではある噂が駆けめぐっていたという。

 「Nさんは、集団リンチされて殺されたようだ」「何時間も車に監禁されて殺されたらしい」「事件関係者が巨大プロジェクトに関わっていたため、事件の真相が隠蔽されたのではないか」……。

 島ではめったに起きない事件の衝撃が生み出した集団ヒステリーか、事実が歪曲されて伝わったがゆえの被害妄想か、あるいは事件の真相が別にあるのか。噂はしだいに細部を追加されながら、「隠蔽された重大事件」として島外にまで漏れ伝わるようになっていった。

【特別取材班】
(つづく)

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