2024年04月20日( 土 )

【特別レポート】黒く塗りつぶされる島~逮捕者2人、死者1人を出したメガソーラー事業で揺れる宇久島(4)完結編

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 佐世保市沖に浮かぶ小島、宇久島。壇ノ浦の闘いに敗れた平家盛(平清盛の弟)が落ち延びたという平家伝説の地に2014年6月、大規模な太陽光発電(メガソーラー)事業計画が発表された。しかし、いっこうに進まない計画をめぐって市議が贈賄事件で逮捕され、昨年は事業担当者が島で亡くなったうえに同僚が傷害致死罪で逮捕されるという異例の展開をみせている。さらに取材の過程でわかったのは、島をほとんど覆いつくすパネルの群れが生み出す「海上の黒い要塞」の異様さだ。島民もほとんど知らされていないというメガソーラー事業の全容に迫った。

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パイプ断面積の合計で環境アセス可否を判断、の詭弁

 フォトボルト社が岩手県遠野市で進めるメガソーラー計画については2016年1月、本田敏秋遠野市長が「あまりにも規模が大きすぎる。受け入れがたい」として反対意見を表明した。民話のふるさととして知られる遠野市ではソーラーパネルで景観が損なわれないように行政指導もする予定で、環境問題への切り札として始まった再生可能エネルギー事業が、その規模の大きさゆえに環境リスクとして社会問題化していることを浮き彫りにし始めている。

 実際、メガソーラー事業が計画されている国内各地で、主に環境への影響を憂慮する反対運動などが起きている。昨年10月30日に環境省環境影響評価課が発表した資料によると、2012年度以降に林地開発許可が急増しているが、そのほとんどが太陽光発電事業に使われる土地だという。懸念される環境への影響は、太陽光パネルが立ち並ぶことで生じる気温の上昇、土砂災害の誘発、景観の変化、生態系が壊されることなど多岐に渡るが、実際にどのような影響が出るのか、新しい事業であるだけにすべては把握しきれていない。森林を伐採してパネルを設置するケースでは、山地の保水機能が低下する恐れもあるという。

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長崎県は、メガソーラー事業について環境アセス
は必要ないとするが、その根拠は信じがたいものだ

 一方、宇久島のメガソーラー事業について、地元の長崎県や佐世保市などはどこか他人事のようだ。県は、宇久島の面積の4分の1にあたる約630万m2が黒いパネルで覆われるにも関わらず、環境影響評価条例(環境条例)に該当しない事業だとして、「環境アセスメントは必要ない」とするが、その理由が振るっている。なんと、パネルで覆われる土地の面積をまったく考慮せずに、「太陽光パネルを設置する際に地面に埋設する、パイプなどの直径の面積の合計が30haを超えない」から、環境条例の対象事業ではない、というのだ。環境条例では、「土地の形質の改変を伴う面積的な広がりをもつ事業で、規模は30ha以上」を対象事業としており、つまり太陽光パネルの設置について「土地の形質が改変」するのはパイプが埋まる部分だけだから、その部分の合計面積が30ha未満であれば問題ないということだ。

 詭弁といってもいい、あまりにも杓子定規な判断だろう。パネルに覆われた部分は日光が届かないため明らかに環境が変化し、島の主要産業である畜産業に大きく関係する牧草の生育にも影響を与える可能性が否定できない。長崎県の担当者の言に従えば、理論上はたとえば1,000m2を超える広大なパネルを貼る際でも直径10cm2の4本のパイプで支えていれば、わずか40cm2の土地の改変ということになる。法の抜け道といってもいい茶番であることは、誰の目にも明らかだろう。環境アセスメントの制度趣旨まで遡って、宇久島のメガソーラー事業に適用されるかどうかを判断すべきではないのか。

 宇久島のメガソーラー事業について、長崎県は九電工などに自主環境アセスメントを求める方針だというが、これはあくまで自主的なもので、たとえ「名ばかりアセス」にとどまったとしても責められる筋合いはないのかもしれない。2,000億円を投じる事業で、さらに着工期限が迫るなかでアクセルとブレーキを同時に踏むようなことをする事業者がいるはずもないのだ。

 佐世保市は、「年間20億円規模になるのでは」(佐世保市行政関係者)とみられる、メガソーラー事業で市に落とされる税収のほうに気を取られているようだ。過疎化、少子化、超高齢化、そして地域産業の衰退など、宇久島を取り巻く環境は厳しく、市町村合併後は佐世保市の税金が投入されるばかりの「手のかかる問題児」であった宇久島が一転、金の成る木に化けるのだ。「島の景観がどうなろうとかまわない」というのが本音といったところか。

宇久島が死んでしまう前に

自然豊かな現在の宇久島が、黒い要塞化する日が来るのか

 ソーラーパネル設置が本格化すれば、島外から外国人労働者を含む1,000人以上の作業員が島に常駐するとみられており、一時的に島の経済が活性化する可能性はあるものの、「のんびりした島の時間が失われ、風紀が乱れるのではないか」と心配する島民も少なくない。はたして、メガソーラー事業はこのまま着工するのだろうか。

 着工が間に合うかという問題のほかに、メガソーラーで発生させた電力を買う相手がいるのかどうかという点も懸念材料としてあげられる。基本計画書では、宇久島メガソーラー事業で得た電力は「九州電力が買い上げる想定」と明記されているが、九州電力は取材に対して「電力をどこから買ったのか(買うのか)、買わないかという個別の案件についてはいっさい公表していない」と、同事業と電力の買取(予定)契約を結んだかについて明らかにしなかった。 

 九州電力は昨年10月13日に、太陽光発電事業者に一時的な発電停止を求める「出力制御」を国内で初めて(離島を除く)実施した。原発4基が再稼働したことによる電力供給力の高まりなどが背景にあるとみられ、九州においてはすでに昼間の電力が供給過剰傾向にあるという分析もある。

 国はエネルギー基本計画で再生可能エネルギーを主力電源化する方針を示しているものの、一方で原発依存の現状から抜け出すロードマップを示すことができていない。太陽光発電事業が今後も発展し続け、安定した電力供給を続けるためには買取価格と売り先(電力大手)を保証できるかが重要だが、これらは政治・政策マターでもあるため、長期的見通しを得るのは難しくもある。

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黒く塗りつぶされた、宇久島の全景

 今後、九州電力が持続的・安定期に宇久島メガソーラーの電力を買い上げることが可能なのか。九電工は九電グループの1社であるため、おそらくは九電工が主導する宇久島メガソーラーで得た電力を買い上げることに問題はあるまい。しかし、仮にほかの太陽光事業者に優先するかたちで、実質的子会社の九電工を優遇するとなれば、その妥当性が問われる可能性もある。昨年九電が実施した出力制御においても当然、発電停止を求める対象事業者の選定は公平に行われるべきであり、九電グループか否かを基準とすることは許されない。その意味でも、九州電力の「電力の売手(買った相手先)を公表しない」という姿勢には疑問符がつく。

 万が一のケースとして考えられるのは、巨費を投じて大規模なメガソーラー設備が完成し、島の自然と引き換えに太陽光パネルで覆われた黒い島が出現したとしても、政策変更や諸々の事情で電気を買う相手がいないという笑えない事態だ。フォトボルト社は日本にとどまらず世界各国で同様のメガソーラー事業のスキームを売り抜ける企業だが、さて、したたかな外資の手のひらの上で国内大手企業が踊らされている可能性はないのか。あらゆる視点から、宇久島で進むメガソーラー事業の妥当性について検討すべきだ。

 「島が死んでしまう」(島民談)前に、立ち止まって考える必要がある。

(了)
【特別取材班】

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