2024年04月20日( 土 )

福岡市のまちづくりを支える業界団体 慢性的な技術者不足にどう立ち向かうか?

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(一社)福岡市土木建設協力会 会長    大野  太三  氏

(一社)福岡市土木建設協力会は、福岡市発注の土木建築を請け負う会社などで構成され、正会員数は106社(2018年11月時点)。福岡市のまちづくりを支える業界団体として、重要な役割をはたしてきた。18年7月の西日本豪雨の際には、福岡市内でも道路法面の崩壊などの被害が発生。会員企業が復旧活動に当たった。多くの会員企業経営者が頭を悩ませるのが、技術者の不足。とくに若年層の建設離れは深刻な問題となっている。福岡市建設業界の人づくりは今後、どうなるのか。福岡市土木建設協力会の大野太三会長(丸三工業(株)・代表取締役社長)に話を聞いた。


市内106社が参加、地域貢献活動なども実施

 ――(一社)福岡市土木建設協力会の歩みや活動内容などをお願いします。
 大野 福岡市土木建設協力会は、前身となる福岡市土木請負業組合が1950年5月に設立されたのが始まりです。福岡市発注工事を請け負う市内業者の集まりです。その後、71年4月に現在の名称に変更され、80年に社団法人化、2012年に一般社団法人化されました。会員は福岡市内の建設関連企業などで、18年11月時点の会員数は106社です。設立の目的は、「土木建設事業の円滑な推進と技術的・経済的向上を図り、公共の福祉の増進に寄与する」となっており、さまざまな事業を行っています。

 事業としては、関係法令や制度などに関する講習会、安全大会などのほか、技術、技能、経営の向上のための調査研究、土木技術懇談会などを開催しています。福岡市との共働としては、18年に市が進める「一人一花運動」について、ボランティアで基盤整備の協力や、自治協議会と連携した防災教室の開催などを実施しています。防災教室は、地元のお年寄りや子どもを主な対象に、近年全国各地で豪雨災害が多発しているなか、避難のための“い・ろ・は”の教室。避難場所の確認など災害への備えの一環として、とくに力を入れて取り組んでいるところです。16年2月から、防災士の資格をもつ会員企業の社員102名が中心となって、災害予防支援などの活動も行っています。

18年7月の西日本豪雨により、福岡市内
でも道路法面崩壊などの被害が出た
(写真提供:福岡市土木建設協力会)

 ――福岡市内では、大雨による災害復旧活動はありましたか。
 大野 18年7月の西日本豪雨の際に限っていえば、早良区や西区などで、道路の法面崩壊や山間部の崖崩れなどの被害が発生しました。協力会では災害発生時の活動に関する協定を福岡市と結んでおり、この協定に基づき、福岡市からの要請を受け、地区を担当する協力会会員が現地で土砂の取り除きなどの復旧活動を実施しました。この豪雨では、市内のため池が決壊する危険性もありました。今までにない雨量になってきています。

「後継ぎがいない」「儲からない」で廃業

 ――福岡市の公共土木工事の推移は?
 大野 ここ2~3年は、年間1,600億円~1,700億円の間で、ほぼ横ばいで推移しています。実感としては、仕事が増えているという感じはありません。

 ――会員数の推移は?
 大野 若干ですが減っています。主にC、Dランクの業者の廃業にともなうものです。一般的にいって、C、Dランクの業者はA、Bランクの業者に比べ、工期が短期的で、仕事が途切れると経営的に厳しい面があります。いわゆる「仕事の平準化」という問題です。「儲からない」「跡継ぎもいない」となると、「こんな仕事やっとられんね」という話になるわけです。

 ――会員数は多いほうが良いのですか?
 大野 福岡市の土木業界を考えれば、必ずしも多ければ良いということにはなりません。ただし会員数の多寡は、協力会としての発言力に影響してくるため、一定の会員数は必要だと考えています。

 ――仕事が途切れないよう、赤字でも仕事を取りに行く業者もあると聞きますが・・・。
 大野 それは福岡市でもあります。会社の体力を一番失うのが「低入札」です。最低価格で仕事を取ってしまうと、「適正利潤」を確保できないからです。適正利潤がないと、会社の利益を確保できない。それを続けると会社の体力がなくなる。会社を続けられなくなるわけです。

足りない技術者「とにかく人が来ない」

 ――土木技術者確保に関する動向、活動はどうなっていますか?
 大野 会員各社での土木技術者確保の状況などについて、協力会として調査したわけではありませんが、個人的に何人かの経営者の方々に話を聞くと、概ね「若い子が入らんよね」「どうしようか」という意見で一致します。

 ――慢性的に「土木技術者が足りない」という状況があるわけですか?
 大野 そうです。私自身、建設会社を経営していますので、「とにかく人が来ない」という実感があります。とくに新卒採用はほぼ皆無ですね。地元の工業高校、高専、大学には一応求人を出しているのですが、誰も来ません。土木系の学生数が少なくなっています。10年前には2クラスあった高校が、今は1クラスです。しかも土木だけのクラスではない。そして、数少ない土木の学生は、大手ゼネコンに行ってしまう。地場の建設会社に学生は来ません。30~40歳の経験者を中途で採用するしかありません。私の会社だけでなく、ほかの多くの会員企業も同じ悩みを抱えています。

 ――中途採用が多いのですか?
 大野 中途採用も少ないです。中途で採用できれば、「お前んとこ、運が良いね」ぐらいのものです。中途も人がいません。

 ――やはり待遇の問題がある?
 大野 そうですね。給与や福利厚生ですね。大手ゼネコンに比べると、どうしても待遇面で見劣りしますし、「現場の面白み」にも欠けるところがあります。地場の建設業だと、道路や下水道、河川ぐらいの小さな仕事に限られるわけです。橋梁やトンネル、港湾などの大きな仕事は、地場建設業にはなかなか手を出せません。非常に残念なことですが、我々地場の建設会社は、技術を学べる大きな仕事ができる環境にないのです。協力会としても、技術委員会などの活動を通して技術を磨く努力をしているのですが、なかなか追いつかない現状があります。

従来の教え方は今の子に合わない

2018年5月、通常総会で挨拶する大野会長

 ――丸三工業の社長として、学生採用のため、学校に行くこともあるのですか。
 大野 行きます。学校の就職担当の先生と話をするのですが、厳しい状況です。ある先生には、「地場の建設業に学生は行きませんよ」と言われたこともあります。土木の勉強をしていない学生もOKなのですが、それでも来ません。女性もウェルカムですが、現場の受け入れ態勢がまだ整っていないところがあります。

 ――丸三工業の技術者は中途が多い?
 大野 ほとんどが中途ですね。10数年前に大学卒を3名新卒採用しましたが、それ以降、新卒はないです。その3名は辞めずにまだいます(笑)。我が社にとって今、彼らは大事な戦力です。

 ――若手をどう育てるかも、難しいところがあると聞きますが・・・。
 大野 「若い子はとにかく2~3年現場に出て、スコップもって、汗をかいて覚えろ」というのが、我々の従来のやり方でした。そういうやり方は、今の子には合わないところがあるのかもしれません。今はパソコンを使ってやる仕事もあるので、身体を動かすだけが能じゃないと考えています。原価管理もできない、書類もつくれない現場代理人では、困りますし。

 ただそれでも、私自身は、まず現場でいろいろ経験するのが、やはり一番の近道だと考えています。土木の仕事は、とても一朝一夕で身につくものではないからです。急いで育てようとして、怪我でもされたら仕事が止まってしまいますし。現場で経験を積んで、各工程の段取りをちゃんと把握して、「いつ何をすればいいか」を理解することが、一人前の現場代理人になるための必要なステップだと考えています。実際、現場代理人への要求事項は多いので、1つひとつステップを踏んでいく必要があります。

ICT施工は今後、勉強が必要

 ――現場では「修正協議が多くて大変だ」という話を聞きますが・・・。
 大野 土木の仕事は、9割がたが土のなかでの作業になるので、設計と違う状況というものがどうしても発生します。設計変更も現場代理人の大事な仕事になります。私は、土木の仕事と建築の仕事は違うと考えています。建築の仕事は目に見えますが、土木の仕事は土のなかなので、目に見えません。設計段階では、土のなかがどうなっているか、何が入っているかわからないことは多々あります。いろいろな修正協議が発生するのは、良いものをつくるためには、むしろ当たり前のことだと考えています。良い仕事をするためには修正協議は必要であり、それをやるのが現場代理人だと思っています。

 ――国の施策ですが、「i-Construction」についてどうお考えですか。
 大野 私の個人的な意見ですが、近未来を想像して考えれば、一般的な土木の現場でいえば、現場の状況によっては、生産性が向上する現場もあると思います。ただ、地場の建設業者が請け負う都市土木の現場の場合、現状ではまだまだだと考えています。i-Constructionを推進するためには、地場の建設業者にとってメリットが出るような環境を整えることと、地場建設業者の努力、好奇心が必要ですね。

 ――環境といいますと?
 大野 まずは、ICT施工が目的ではなく、我々土木業者がもっている「ものづくりへの情熱」を引き出すための手段としてのICTと考えれば、自ずと何が必要なのか見えてくると思いますし、そのためにはどういう環境なのかがわかると思っています。

 今後、私たち業者の勉強が必要です。それと同時にモデルケースが当局より示されました。18年11月にICT対応の工事が出ています。そういう土木工事が人手不足の解消と労働環境の改善につながっていくと思います。

ものづくりへの情熱を絶やさない

 ―― 一般的な土木と、都市土木とは違うものでしょうか。
 大野 工事に対する考え方が全然違います。「一緒にするな!」と言いたいぐらいです。地下埋設物、また地上・空中の構造物も多いわけです。こうした施工環境に加え、まして人や車両も多いので、細やかな心配りと安全対策が重要になります。

 ――都市土木の難しさとは、たとえばどういうことでしょう?
 大野 施工方法からいうと、道路の掘削1つをとってみても、道路の下にライフラインがあります。各々どの場所にあるかは、事前調査でわかりますが、図面通り入っているとは限りませんし、大昔に入れた「不明管」もあります。機械での掘削も、慎重に人が目視しながら進めなければなりません。掘削1つをとっても制限があり、思うようにはいきません。それ以上に気を付けなければならないのが、通行人や車です。夜間だと酔っ払いや車が突っ込んでくるなど、いろいろなことに気を配りながら、予定の工期に間に合わせ完成させねばなりません。

 私が思っているのは、近い将来、いろいろな条件でICTが機能して土木工事を完成させる。そのために協力し知恵を絞ってつくり上げ、土木が本来持っている“ものづくりへの情熱”を絶やさないようにすべきだということです。

【大石 恭正】

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