2024年03月28日( 木 )

【福岡空港現場レポート】国内線ターミナルビルはどう生まれ変わるのか?

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福岡空港ビルディング(株)(現在は福岡国際空港(株)に吸収合併)(福岡市博多区、永竿哲哉社長)は、2015年6月から国内線旅客ターミナルビルの再編事業に着手している。同事業は、国土交通省が進める誘導路二重化にともなうもので、老朽化した一部既存ビルを解体・撤去。既存のビルから50m程度セットバックし、ターミナル機能などを向上させたビルに再編する。約半分が全面建替え、残りの半分が部分改修となる。完成は20年1月末の予定。事業費は約400億円。施工は清水・錢高・西鉄JV。商業施設リニューアルのほか、新バスラウンジや展望デッキの整備なども行う。地下鉄直上部分の工事などは施工上の制約があるなか、ターミナル運用を続けながら、段階的に機能移転させる必要がある。同事業により、福岡空港はどう変わるのか。工事の進捗や施工上のポイントなどと併せて取材した。


ビル老朽化、機能分散などの課題

福岡空港の新国内線ターミナル
のイメージ図(設計:梓設計)

 福岡空港ビルディング(株)は、航空会社や地元企業、福岡県、福岡市などの出資により、1967年に設立。ターミナルビルの建設、管理運営などを手がけてきた。18年11月、西日本鉄道(株)などが出資する特別目的会社、福岡国際空港(株)(通称・FIAC)がその全株式を取得して子会社化し、19年2月に吸収合併した。福岡国際空港は引き続きターミナルビルの管理運営、改修事業を行うとともに、19年4月から滑走路などの国管理部分の運営を引き継ぐこととなる。

 福岡空港国内線の第1旅客ターミナルビルが供用開始したのは1969年。その後、74年に2ビル、80年に3ビルが供用を開始している。99年には国際線ターミナルが供用開始。1ビルは供用開始から40年以上が経過し、老朽化が進んでいた。また、段階的なビル増築により、出発や到着などの機能がビルごとに分断され、利便性の向上も課題になっていた。

「つくってから、改修する」

解体撤去作業が進む既存ターミナルビル

 再編工事の進め方は「まず新しい施設をつくってから、改修する」が基本的な流れとなる。最初に行われたのが、ターミナルビル本体ではなく、隣接する別棟(鉄骨造、6階建、延べ床面積約7,700m2)の建築だった。ターミナルビル内のオフィス移転先を確保する必要があったためだ。

 別棟完成後にターミナルビル内のオフィスが移転し、移転後部分の改修工事を行った後、16年10月に1ビルは解体・撤去。国内線発着便は2、3ビルに集約され、到着口がそれぞれ北と南の2カ所に集約された。その後、17年8月に北の到着コンコース、18年8月に南の新出発口、到着コンコースが供用を開始。出発動線と到着動線が完全分離され、セキュリティ性が向上した。新たな地下鉄改札口の設置に合わせ、地下鉄アクセスホールを整備する。ホールは吹き抜け構造で、地下2階の改札口から直接1階のチェックインカウンター、2階の出発口に移動できるエスカレーターを整備する。供用開始は19年春を予定している。

滑走路を模した通路が目を引く「ラーメン滑走路」

 新たなビルは、地上5階(一部)、地下2階(一部)で、延べ床面積は約12.7万m2。既存ビルより1万m2ほど面積が広がる。残る主な工事はバスラウンジの整備で、20年1月に供用開始予定だ。再編工事全体の進捗率は18年12月時点で約88%となっている。

 商業施設もリニューアルする。「福岡空港公園構想」をコンセプトに「PORTからPARKへ。」というキャッチフレーズを掲げた新ターミナルビル「greenblue」には、博多の名店が並ぶ「DELICIOUS LANE」(16年10月開業)、福岡グルメを楽しめるフードホール「the foodtimes」(16年12月開業)、全国のラーメン店がそろった「ラーメン滑走路」(17年11月開業)などを設置した。

騒音振動対策に配慮

地下鉄アクセスホールのイメージ図(設計:梓設計)

 再整備工事に際しては、関係機関、関係会社との連絡調整を密に行っている。関係者としては、福岡空港を所管する国土交通省大阪航空局、第二滑走路増設工事を担当する九州地方整備局、地下鉄改札口新設工事を行う福岡市交通局のほか、飛行機燃料を供給する福岡給油施設(株)、飛行機に電力などを供給する(株)エージーピー、各航空会社、バスやタクシー会社がある。毎月1回、工事予定などについて協議調整し、問題があれば変更修正を加えながら、工事を進める必要がある。

 解体・撤去作業では、騒音や振動対策などに神経を使った。騒音、振動をともなう解体作業は、空港運用中に作業を行えず、夜間に作業せざるを得なかった。防音シートを張り、狭い作業ヤードのなか、極力騒音や振動の出ない工法で作業を行い、近隣住民へ影響が出ないよう細心の注意を払った。

 地下鉄アクセスホール工事は、施工場所が地下鉄直上となるため、地下鉄の構造や運行に影響を与えないよう配慮しながらの工事となる。たとえば、地下鉄駅舎上部に新築するターミナル部分は杭が打てない。そのため、建物上部で地下鉄駅舎をまたぐ橋梁のような架構を組み、そこから各階の床を吊って支える構造を採用している。南側の預け手荷物受取場周辺がそこに当たる。また、工事中に地中から昔のコンクリート構造物が出土。撤去などに時間を要した。

 騒音対策による工法変更や地中障害物の撤去などにより、全体の工期は当初予定から10カ月ほど延長することとなった。

 FIACは、30年後のイメージとして、国内線ターミナルに隣接する空港外側のエリアに、商業施設、ホテル、バスターミナルからなる複合施設のほか、立体駐車場を新たに整備する構想を明らかにしている。現在の再編事業が完了するのは20年1月の予定だが、その後も24年度末には第2滑走路の増設工事が完了するほか、これに合わせ、都市高速空港線の延伸も進められる。将来の福岡空港はどのような姿になるのか。今後の動きから目が離せない。 

【大石 恭正】

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