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2019年03月23日 07:04

伸長するオーガニック市場 海外との違いが浮き彫りに(後)

ドネーションと奉仕の国

 【表1】に示したようにアメリカの場合、食品全体に占める有機食品は全体の5%程度に過ぎない。その成長率も従前の2ケタ成長から最近は1ケタに落ちてきている。その理由は2012年当時の3%台の構成が17年は5%超と絶対量が増えたこともあるが、もう1つは価格にある。

 この10年、食の安全や環境保全意識の高まりと高級スーパーのホールフーズ・マーケットなど、有機由来の衣料・食料品を取り扱う小売店が増えたことで有機食品への注目度が高くなり、取り扱い小売店も増えた。その結果それなりの価格競争が起こり、一時的に従来品と有機品の価格差が小さくなって販売量は増えた。しかし、最終的には有機作物は生産コストが高く、販売価格もそれを反映したものにならざるを得ない。

 だからアメリカでも同じ理由で有機青果物の価格は安くない。クローガなどの大手スーパーマーケットのなかにはあえて有機栽培品との価格差を小さくして集客につなげようとする動きもあるが、サンフランシスコとアトランタの市場価格比較表【表2】のように卸売の価格にも小さくない価格差があるのが現実である。

買いたいが買えない

 消費者のなかで、価格より質を優先する階層は5%程度だ。高くても健康には代えられないという消費者を加えても10%に届かない。この傾向は日本でも同じだ。有機食品重視の消費者は子育て世代と高齢者が中心になる。それでも通常品との価格差は20%程度が許容値だ。それ以上の価格差になると手を出しにくい。有機栽培品の価格が高くなるのはその栽培条件にある。

 日本では03年、超党派の議員立法で有機農業の推進に関する法律が成立した。法律に基づき策定された基本方針や規制によると有機栽培による生産を生産品に表示するには管轄する農林水産省の基準を満たしたうえで登録認証機関の認証を受け、決められた生産管理を厳密に実行しなければならない。

その主なものは以下の通りである。
●化学的に合成された農薬、肥料は使用禁止
●遺伝子組換え技術の利用は禁止
●作付け前の2年以上の間、化学的肥料、農薬を使用していないこと
●年1回の登録認証機関の確認実施

 このほかにも事細かな管理規定があり、有機商品を手軽に提供するという環境にはなりにくい。もちろん、消費者を欺かないための規定だが、限られた耕地面積に加えて、先述のように、湿潤・準温暖な気候は化学的な手法抜きでの栽培を困難にしている。さらに家畜の糞尿や有機物由来の肥料の生産や入手も容易ではない。あえて化学的手法抜きで作物を生産しようとするとその生産効率は大きく低下することになる。野菜の場合、同じ栽培地で連作をするとそのリスクはさらに大きくなる。

 作物にもよるが、リンゴやミカン、白菜など、比較的病虫害に弱い作物の有機栽培はさらに簡単ではない。狭い耕作地が普通の我が国ではこの問題もある。

 さらに農家戸数の減少と高齢化の問題もある。農家は1950年をピークに減少を続け、今や200万戸を切るというところまできている。そのため、農業センサスによると耕作を放棄した農地は40万haを超え、まさに危機である。今後、企業による農業分野の参入がない限り、高齢化による離農が進行・増加するはずだ。高齢農家が手間ひまのかかる有機栽培をするのは容易ではない。

 しかし最近、新規に農業を始める人が少しずつ増え始めている。加えて、有機農法に興味をもつ農業者も一時より増えているという。

 とくに大手スーパー系列の農業法人では新卒で入社した社員の離職者がほとんどないという事例を聞く。さらにそのスーパーは輸入品を含めて構成した有機食品の専門スーパーの展開も始めている。

欧米との違い

 日本の有機作物と欧米でのそれを比較してみると、その視点にある違いがある。欧米の消費者が有機食品に注目するのは自らの健康嗜好だけでなく1990年代にアメリカで提唱され始めたLOHAS(lifestyles of health and sustainability)という環境保全と将来の地球環境に対する考えがある。個人的な価値観に加えて、将来の子どもたちにより良い地球環境を残そうという半ば将来への責任という感覚である。有機作物への注目度と消費量の差もそのあたりの違いによるのかもしれない。

 価格差表【表4】は従来作と有機作の価格比較だが、アメリカと同じで有機作物は従来栽培の作物に比べて1.7倍の価格というデータがある。この価格にどう納得するかは個人の考え方と経済事情だろうが、今後安心、安全、環境保全の意識の高まりは後退することはないと推測される。だが、一部で囁かれる一般農産物が食の安全という見地から極めて危ないという説には今ひとつ現実味がない。大部分の消費者が従来型農業で生産されている食品を消費して広い意味での不都合が生じているとはいえないからだ。

 もう1つの錯覚も指摘したい。道の駅や農産物直売所の商品へ寄せる全幅の信頼である。たしかに、そこで販売される農産物は大きさも見た目も立派である。農薬や過剰肥料抜きで虫食いのない大ぶりの青果物の育成は容易ではない。しかし、道の駅や産直というだけで消費者の多くはすべての商品が無農薬、有機栽培と錯覚しがちだ。
 あえていえば虫食いや虫そのものが付いた農産物を受け入れない限り、本当の有機・無農薬の世界は遠いのかもしれない。

(了)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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