2024年04月19日( 金 )

【公立福生病院の透析中止問題】透析中止の判断は適切だったのか~日本透析医学会、「5月中に声明発表する(後)

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修復腎移植術を先進医療に適用

 今回の事例の背景には、透析以外に治療の選択肢がないという問題もある。日本では約30万人以上の患者が、腎不全のため透析治療を受けており、その数は毎年1万人のペースで増加している。1日約6時間、週3回の透析治療は、仕事や生活上の制約を受け、合併症で苦しむ患者も少なくない。こうした辛い状況から解放されたいとの思いから希望するのが腎臓移植だが、腎臓移植を受けられる患者は年間1,500人程。約20%が脳死判定で亡くなった人の腎臓が提供される「献腎移植」で、残る80%は健康な人から善意で提供してもらう「生体腎移植」となる。

 献腎、生体腎に続く3番目の移植治療として注目されているのが、がんで摘出した腎臓を移植する“修復腎移植術”だ。修復腎移植術は、2006年に宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)泌尿器科部長の万波誠医師が、がん患者から摘出した腎臓を、がん細胞を除去して他の腎臓病患者に移植を行っていた手術で、当時はタブーとされる手法だったこともあり、大きな社会問題となった。しかし、その後、病理専門医から「小径腎細胞がんの全摘例ならば病気腎移植も問題ない」との意見が出されるなど、修復腎移植術に対する風向きは大きく変わった。さらに、この流れを決定づけたのが2017年10月に、厚労省の先進医療技術審査部会が、同移植術を先進医療に条件付きで適用することを決めたことにある。

 審査部会の判断では、ドナー(臓器提供者)の腎臓に発生した小径(直径7cm以下)がんを切除して修復した腎臓をレシピエント(臓器移植者)に移植する修復腎移植術を先進医療に適用するというもので、これにより患者は保険診療(診察料・検査料・投薬料・入院料など)と保険外診療(先進医療技術部分)を併用した治療を受けることができる。症例が増え、安全性が担保されていけば、大学病院などが同移植術を実施する可能性も広がり、将来的には保険診療に適用される道も開かれることになる。

予防的処置で期待されるビタミンC点滴療法

 慢性腎不全は、一度進行すると回復の可能性がない不可逆的な病態だが、初期の段階で進行を食い止める手段はないのか。その答えとして、がん治療専門の健康増進クリニック院長・水上治氏は、「遅延させる1つの手段として高濃度ビタミンC点滴療法がある」と話す。高濃度ビタミンC点滴療法は、グラム単位の高用量のビタミンCを点滴することで、がん細胞にダメージを与える治療法。これまで腎機能に対する効果は不明だったが、「近年、症例が出始めており、仲間内ではその効果が知られるようになった」(水上医師)という。仲間の1人、藤沼医院(栃木県河内郡)の藤沼秀光医師は、腎硬化症1例、糖尿病性腎症1例に高濃度ビタミンC点滴療法を行い、腎臓機能の指標であるクレアニチンと尿素窒素のレベルが低下したことを確認。論文を国際統合医学会誌に投稿している。

 ビタミンCの腎機能改善効果のメカニズムについて論文では、「ビタミンCの抗酸化作用が腎尿細管の酸化障害を防ぐことが考えられる」としている。藤沼医師は、「当院では腎機能が低下し、通常であれば人工透析の準備のため専門医療機関に紹介する前段階として高濃度ビタミンC点滴療法を勧めている」と話している。

 国内で透析治療を受けている患者数は約32万人。うち約1万2,000人が腎移植を希望しているが、腎移植待機期間は平均15年と長く、その間、多くの透析患者が亡くなっている。修復腎移植術への先進医療適用により、治療の選択肢が増える一方で、予防医療的なアプローチとして高濃度ビタミンC点滴療法のさらなる臨床研究が期待される。

(了)

日本透析医学会「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」より
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