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2019年04月11日 10:25

中国現地ルポ -広州・杭州・長春・北京-(4)

福岡大学名誉教授 大嶋 仁 氏

愛国心

 広東省に滞在すること3週間、3人の共産党員と出会った。1人は珠海で出会った32歳の男で、すでに言及した。あとから考えると、エリート党員である。もう1人は大手企業の社長秘書。30そこそこの女性で快活だ。3人目は大学教員で、二児の母である。

 社長秘書を務める女性党員は、こんなことを言った。「共産党でなくても、中国人は国のことを考えてますよ。できるだけ国をよくしたいって思ってるんです。一生懸命仕事をすれば、それだけ自分の給料も上がるし、会社も豊かになる。会社が豊かになれば、税金で国を豊かにできるって考えるんです。うちの社長さんもそうですよ」

 論理は単純だが、それを素直に信じている。こういう人が数多くいて、党を支えているのだ。

 彼女にあえてこう尋ねた。「じゃあ、共産党員になるメリットは?」

 すると彼女、大真面目にこう言った。「党員になると、国が国民に何を求めているか、よくわかるんです。私たちは国民ですから、党が求められていることを実行しなくてはなりません」

 この答えはあまりに紋切り型だったので、今度は別の角度から質問した。「そもそも党員になった動機は何ですか?」すると彼女、「私、高校生のとき、勉強ができたんです。そしたら、校長先生から『共産党に入れてあげるよ』と言われた。つまり、ご褒美ですね」

 要するに、社会主義の理念など関係ない。社会における安定した地位を保証する機関として共産党があり、そこに所属することで、精神的・社会的な安定を得ているのだ。そういう彼女が「党に恩返しをしたい」と思うのも当然であろう。

 彼女の言葉で最も印象に残ったのは、「国が私の神さまです」という言葉だ。「中国人なら、党員であろうとなかろうと、そう思っているはずです」と彼女は付け加えた。中国人がもつ独特の愛国心。私はそれを聞きながら、中国現代史を決定づける「国共合作」を思い出した。

 国共合作とは、日本軍が中国に侵攻したとき、蒋介石の国民党と毛沢東の共産党が熾烈な争いを展開し、中国を二分していたにもかかわらず、日本という外敵が現れた途端に両党が手を結んで、国を守った出来事をいう。内戦を一時休止させて、日本を敗退させてから、再び内戦に戻ったという歴史事実である。このようなことは、中国人が中国という国を愛していなければ決してできないことだ。

 かつて社会主義者オーウェルは『右であれ左であれ我が祖国』と言ったが、彼は島国イギリスの人間だ。中国は巨大な大陸で、56の民族をかかえているにもかかわらず、「我が祖国」という理念でまとまっている。「私はハニ族ですが、その前に中国人です」と言った、雲南省で会ったハニ族の男性の言葉が、今さらに耳元に響く。

 もう1人の共産党員、広州の大学教員に話を移そう。すべての大学は共産党の監視下にあるが、彼女によるとそれは少しも理不尽ではない。なぜなら、「大学といえども1つの社会であり、教員と学生と職員が一体でなければならない。その一体感は、上からの指導があって初めて可能だからだ」。

 「上からの指導」というと、日本なら文科省の指導。しかし、文科省には中国共産党のような理念、社会はこうあるべき、国はこうあるべきという思想はない。従って、行きあたりばったりにならざるを得ない。一方の中国は、それが全面的に正しいか否かは別にしても、少なくとも一定の理念による方向付けがある。それゆえ、初等教育から大学まで、一貫性と社会的連帯を確保できるのである。一概にこれが良いとは言い切れないかもしれないが、孤立した人間がかかえる不幸を予防する効果があることは認めねばならない。

 珠海で知り合った若き党員が言ったことを思い出す。「皆さま誤解してますが、共産党内部ではいつも激しい議論が展開されてるんです。社会主義の理念に照らして国の政治が行われているか、言論の自由と社会の安定のバランスはどうあるべきか、党内では議論が続いているんです」

 中国と日本のちがいは、もしかすると、憲法が政治に反映されているか否かの議論を、政治家がしているかいないかのちがいなのかもしれない。日本ではそうした議論が行われているようでいて、実は行われていない。というのも、私の脳裏から、福岡県出身の自民党元議員・古賀誠の言葉が離れないからだ。「うちの党内でもね、議論というものをしなくなりましたね。結論がどこに落ち着こうと、議論をしない民主主義なんて、あり得ないことなんですがね」

 これは1人自民党の問題ではなく、日本全体の問題であろう。

(つづく)

<プロフィール>
大嶋 仁 (おおしま・ひとし)

 1948年鎌倉市生まれ。日本の比較文学者、福岡大学名誉教授。 75年東京大学文学部倫理学科卒業。80年同大学院比較文学比較文化博士課程単位取得満期退学。静岡大学講師、バルセロナ、リマ、ブエノスアイレス、パリの教壇に立った後、95年福岡大学人文学部教授に就任、2016年に退職し、名誉教授に。

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