【法律相談】取引基本契約書の重要性
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取引先の倒産などの非常時の債権回収として、法的手続を検討するよりも前に、取引先に販売した自社商品を引き揚げることによって、未回収被害を最小限に食い止めることを検討することも多いかと思います。
しかし、取引先の了解を得ずにこっそりと持ち出すと、窃盗罪に問われる可能性があります。後からトラブルにならないように、取引先の了解のもと、商品引き揚げの「同意書」等に署名してもらって商品を引き揚げるということになります。特約がなければ、取引先に商品を引き渡した時点で取引先に所有権が移転することになります。商品を引き揚げるためには、代金支払いが遅れていることを理由に売買契約を解除するか、取引先に合意解約に応じてもらったうえで商品を引き揚げるという手順が必要になってきます。
しかし、契約を一方的に解除するためには、一定の期間を定めて代金支払の催告をする必要があり、取引先の信用不安が発生し、緊急の対応が必要な状況下では出遅れてしまう可能性があります。また、取引先が合意解約に応じてくれるか否かもわかりません。
このようなときには、事前に「取引基本契約書」を取り交わし、同契約書において「商品の所有権は代金完済時に買主に移転する」という所有権留保条項を定めておくと効果的です。もちろん、最終的に商品引き揚げの際には取引先の協力は必要ですが、契約上所有権が貴社にあるという事実は、取引先を説得し協力に応じさせる重要な材料になってきますし、また後日のトラブル回避にも効果的です。
また、取引先が銀行取引停止処分を受けた場合でも、貴社の債権の支払期日が到来していなければ貴社は債権回収ができません(※)。この点についても、「取引基本契約書」に「銀行取引停止処分を受けたとき等には、期限の利益を喪失し未払債務全額を直ちに支払う」という期限の利益喪失条項を定めておけば、即時回収に動くことができます。また、前記の契約解除についても「無催告」解除の特約を定めることで、催告なしに即時解除できるようにすることも可能です。
注文書・受注書のやり取りだけで特約を定めない取引ですと、民法等の一般原則に従う必要があり、非常時の債権回収において他の債権者から取り残されてしまう危険があります。貴社に有利な「取引基本契約書」を作成することで、迅速かつ有利に対応することができます。非常事態になってから弁護士に依頼するのではなく、平時の備えが重要です。弁護士に相談のうえ、非常時に効果的な対応ができるよう備えていただきたく思います。
※たとえば、1月末日締め翌2月末日支払という取引条件で、取引先が2月10日に取引停止処分を受けたとしても、貴社は支払期限である2月末日まで、法的には取引先に支払いを強制することはできません。
<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。福岡県建築紛争審査会委員、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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