2024年03月30日( 土 )

頭上に残された自由空間、高さ制限の緩和が福岡市にもたらすもの

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 福岡市は7月4日、「旧大名小学校跡地」における航空法高さ制限の緩和が許可されたことを発表した。福岡市で認められている「航空法高さ制限のエリア単位での特例承認」としては、「天神明治通り地区」に次いで2カ所目となる。今回の航空法高さ制限の緩和は、今後の福岡市都心部における再開発に、どのような影響を与えるのだろうか。

航空法による高さ制限下での都市形成

 福岡市の都市の特徴の1つとして、都心部から空港へのアクセスが他都市に比べて良好なことが挙げられる。福岡空港は都心から約7kmという近い距離にあるだけでなく、福岡市営地下鉄が国内線ターミナルに乗り入れており非常に利便性に優れている。福岡市民のみならず、他都市からの観光客やビジネスマンなども、この都心部に近い空港の恩恵を存分に享受してきた。

 しかしその一方で、弊害もある。航空法による建築物の高さ制限だ。航空法第49条に定められた空港周辺における高さ制限により、制限表面(航空機の安全な航行を目的として飛行場の周辺空間に設定される面)が規定されており、制限表面を超える高さの建造物、植物その他の物件については、設置・植栽・留置することが禁止されている。そのため、福岡市では他都市に比べて、都心部の建築物の高さが抑えられてきた。こうした福岡の都市事情を、「空が広い」「開放感がある」と好意的に捉える意見もある一方で、高さ制限により自由度が狭められ、都市空間を形成するうえでの“枷”となってきた側面もまた否定できない。

 だが現在、福岡市は、国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」の認定を受けており、その取り組みの一環として「航空法高さ制限のエリア単位での特例承認」を申請し、国に認められている。水平表面・円錐表面および外側水平表面に係るもので「仮設物」「避雷設備」または「地形または既存物件との関係から航空機の飛行の安全をとくに害さない物件」については、申請し、所管航空局長(福岡空港については大阪航空局長)の承認を受ければ、制限表面を超えていても設置許可が得られるのだ。

 福岡市が最初に高さ制限の緩和の承認を受けたのは2014年11月4日、「天神明治通り地区」においてだった。同地区内の約100棟のビル所有者らが「天神明治通り街づくり協議会」を結成し、『アジアで最も創造的なビジネス街』を目標に掲げて地区内約17haの再開発を目指し、福岡市と協調姿勢をとっていたことも認可への弾みとなった。この緩和により、天神明治通り地区はそれまでの約67mから、福岡市役所と同等の約76mまでの高さの建物の建築が可能となった。
 そして今年7月4日、高さ制限の緩和承認第2段として、「旧大名小学校跡地」が認定。これにより、同エリアでの建築物の高さ制限が現行の約76mから約115mまで緩和され、これまでの約1.5倍の高さとなる地上26階前後の高層ビルの建設が可能となった。今後、同跡地で進められる再開発事業においては、高さに関する建築プランの自由度が広がったことになる。
 また、福岡市の都市計画審議会では8月22日に、同跡地一帯の建物の容積率を現行の約450%から、最大800%まで緩和することが承認された。原則として容積率は最大550%とされているが、人材育成を目的とした施設や広場のほか、高級ホテルなどの集客力強化につながるものと市が判断すれば、最大で800%まで引き上げることが可能に。9月に正式決定される見通し。高さ制限に加えて容積率も緩和されることで、さらに大規模な再開発が可能となることになる。

旧大名小学校跡地が都心のオアシスへ

 旧大名小学校跡地は現在、福岡市を拠点に新たに事業をスタートさせる企業を支援する官民協働型スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」として活用されているが、これは再開発事業が着手されるまでの18年9月にかけての暫定的なもの。将来的に同跡地は、福岡市の新たなランドマークとして生まれ変わることになっている。

 16年5月に開催された「旧大名小学校跡地まちづくり構想」に関する民間提案公募の説明会では、同地の役割を「大名地区と天神地区をつなぐマグネット」としており、(1)歴史文化性、(2)創造性、(3)居住性、(4)防災性、(5)一体性、(6)回遊性――の6要素を兼ね備える必要があることが強調された。同跡地の敷地面積は約1万1,900㎡。周辺エリアも含めた整備提案も可能であることから、提案次第で同跡地だけでなく、大名エリアの景観や存在感を大きく変える可能性がある。

旧校舎保全と土地の貸与で資産価値向上を目指す

 事業提案に関しては、16年5月より民間提案公募が開始され、11件の提案が寄せられた。その提案を参考に、16年12月には跡地活用の検討状況および跡地活用プラン(骨子案)が公表され、さらに今年3月には「旧大名小学校跡地活用プラン」が策定。同プランでは跡地に導入する機能について、公民館や老人いこいの家、広場などの“公共・公益的な機能”を確保したうえで、跡地に備える前途の6つの要素を踏まえた機能を誘導していくとしている。

 同跡地活用をめぐっては、所有者である福岡市教育委員会は校舎を可能な限り現状維持で残すように求めている。1929年竣工のRC造であり、昭和初期の「アール・デコ様式」のデザインが残るなど、文化的価値が高いためだ。また、土地に関しては地価が非常に高い都心部であり、幅広い機能の誘導やさまざまな企業の参画も期待できることから、市は貸与の方針を固めている。貸与にすることで、市は長期にわたる歳入源が確保できるとともに、事業主との借地契約終了後は土地が市に返還されるため、将来の状況に合わせた土地活用も可能となる。市は、貸与の種類について、借地期間が50年以上の一般定期借地権(原則的に借地権の更新はなく、土地は更地の状態で返還される)の設定を計画。同跡地の再開発に際して求められている筆頭項目が歴史文化性でもあること、そして土地は市からの貸与となることからも、校舎の残存確率は高いものと考えられる。

高さ制限緩和で、都心庭園が増加する

 福岡市では今後、今年10月からより具体的な再開発プランを募集する事業者公募手続きを予定しており、18年3月の事業者決定と18年10月以降の事業着手を目指している。先の民間からの11件の提案では、その多くの案で緑豊かな公園などの計画が盛り込まれている。今回の高さ制限の緩和により、低層部のゆとりある空間の確保が可能となることもあり、同跡地は今後、都心のオアシスとして再生する公算が高い。

 なお、福岡市ではすでに旧大名小学校跡地に続く第3段として、「天神明治通り地区(さらなる緩和)」「WF地区」「博多駅周辺地区」でも航空法高さ制限の特例承認の相談を進めている。

【代 源太朗】

 

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