2024年04月18日( 木 )

第9回 一橋総研・三田経済研ジョイントセミナー【平成31年3月25日開催報告】~「日本型移民社会の可能性と課題を問う」

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坂中 英徳 氏(移民政策研究所所長 元東京入国管理局長)

「4,000万人の人口減」に「1,000万人の移民」を

 これから50年足らずで日本人の人口は4,000万人減るが、そのうち1,000万人を移民で「補充」する「移民革命」を実行する。と言っても毎年20万人ずつ時間をかけて実施するもので、移民比率は現在の数パーセントが50年後には1割強程度となり、現在の欧州水準に近づくことになる。 

 ただし、それでも3,000万人の人口減に対処せねばならない。明治以降続いてきた人口増時代に形成された人生観・生活様式から政治・産業・地方・教育などの各制度を根本的に見直す必要がある。日本はこの「社会革命」と「移民革命」という「2つの革命」を同時進行させることにより歴史的大転換期に入っていく。

「移民を温かく迎える社会」―上皇のお言葉

 上皇は2018年12月20日に行った誕生日(12・23)記者会見で次のように語った。「近年、多くの外国人が我が国で働くようになりました。私どもがフィリピンやベトナムを訪問した際も、将来日本で職業に就くことを目指してその準備に励んでいる人たちと会いました。日系の人たちが各国で助けを受けながら、それぞれの社会の一員として活躍していることに思いを致しつつ、各国から我が国に来て仕事をする人々を、社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるように願っています。」

 移民は生活者であり勤労者であり、そして納税者だ

 これから生産人口と消費人口がとてつもない勢いで減少していくなかでに、どうして経済成長が展望できるのか。人口激減期に突入した日本で、年金・保険などの社会保障制度の維持や、税収・生産・消費さらに国家財政の問題など、「人口が減ることによって必ず発生する問題」は、もはや移民政策を無視しては解決できない。

 理論的には「小さな日本」と「大きな日本」、そのどちらを選ぶのかということだ。前者は人口が減っても移民には扉を閉ざす「美しい衰退への道」、後者は外国人を受け入れて「活力ある多様な社会を維持する道」。後者こそ日本が選ぶ道だ。

 永住資格を持つ移民は国民と同じ生活者であり、勤労者であり、そして納税者でもある。移民に社会保障を与えることが日本国民にとって「損」であるかのような物言いをする向きがあるが、日本で働きたいと思ってやって来る移民の多くは若い人だ。彼らがたとえばこれから30年、日本で働いて税金を納めてくれることによって、どれだけ日本の経済や財政が支えられるか。彼らが老いれば当然、年金を受け取り、他の日本人と同じように安心な老後を送ることが出来るようにすべきだ。

 入管法の世界に「単純労働」は存在しない

 今まで政府が移民政策をとることを快く思わなかったメディアは、「単純労働に門戸解放」などと「単純労働」という言葉を使いつつ反移民の世論を煽ってきた。しかし、今回の入管法改正で在留資格付与の対象となる14業種の労働は、すべて専門知識・技能・技術を必要とする職業であり、「単純労働」という概念は入管法の世界には存在しない。在留資格に該当する活動はすべて一定の知識や技術を要するもので、産業史をさかのぼれば、いずれの時代も「単純労働」「複雑労働」の区別はなく、人類が知恵をしぼって最先端の産業技術を駆使して生き延びてきたということだ。

日本型移民社会は「和」を重視する

 欧米の移民国家が移民の社会統合に苦悩している状況に学び、日本的な「和」を重視しながら社会的包摂をしっかり保障していくのが日本型移民社会だ。日本語や社会的慣習についての教育から始まり、専門知識や技術の習得など職業訓練を経て、それぞれの分野で活躍してもらい、安定した生活が出来るようになる3年後、5年後というような段階で永住を許可し、希望すれば国籍を取得できるようにする。職業訓練は企業に任せると、「研修」という名目で労働力として用いる例がまた出てきてしまうので、公的な教育機関が対応すべきだ。一定の技術・技能を修めた外国人が企業と正式な雇用関係に入るという仕組みが重要。

 さらに日本の自然環境として地震や台風など自然災害が続いたが、若い世代が少なく、高齢者が多数占める地域に犠牲者が集中している。コミュニティが崩壊寸前の地域社会は災害に持ちこたえる体力がなくなっている。この対策としては若い移民を農業や漁業の在留資格で受け入れ、速やかに永住を許可し移民として迎えるべきだ。

 「同じタイプの日本人」を育てる画一化教育は止める

 大量移民時代には、小中学校に通う移民の子どもが飛躍的に増えることになり、幼児教育や初等中等教育のあり方を根本から見直す必要が出てくる。現在の「同じタイプの日本人」を育てる画一化教育を止め、子どもの個性と多様性を重んじる教育に改めることは移民社会の安定的発展のために不可欠だ。

 日本の伝統文化の精髄を教える文化教育と多民族共生教育を一体として行う。文化的なアイデンティティを失った根無し草のようなコミュニティではなく、日本人の心と移民の心が通う共生社会。「移民開国」を起爆剤として、世界各地からその道の第一人者が集まる社会、異なる文化を貪欲に取り入れる社会、異色の人材が躍動する社会、多様な民族文化が栄える社会、多言語を駆使する人材が続出する社会に生まれ変わる必要がある。

移民法を制定せよ

 移民受け入れ基本計画を策定すべく、先ず、総理大臣を議長とする移民基本政策会議を内閣に置き、年間ごとの移民受入数、移民を認める産業分野ならびに地方自治体、さらに国籍別移民受け入れ枠の決定などの基本方針を審議する。また、移民政策担当閣僚を置き、「移民政策庁」を設置する。
 「移民法」では世界各国からバランスよく公平に受け入れることを基本にすえ、国別の量的規制を行う根拠規定を設ける必要がある。同時に、多数の友好国との間で「移民協定」を締結する。

(一橋総研ウェブサイトより)

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