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2019年05月13日 11:22

【台湾総統選レース】来日の頼清徳氏は「中国の脅威」を強調~国民党優位の情勢続く

来年1月の台湾総統(大統領)選挙を控えて、候補者選定の予備レースが熱を帯びてきた。与党・民進党のエースである前行政院長(首相)の頼清徳氏が8日から12日まで来日した。彼の滞日5日間を追い、国民党優位で進む総統選挙レースの現状を報告する。

 頼氏は59歳。台湾大卒のイケメン元医師。明確な台湾独立派だが、「台湾はすでに独立国家だ。いまさら独立宣言も不要だ」として、対中刺激を避ける知恵も兼備していた。

 民進党の現総統・蔡英文氏が、学者出身につきものの理念先行で不人気に陥ると一昨年、台南市長から急きょ、行政院長に起用された。昨年の統一地方選挙で民進党が惨敗した責任を取って、同院長を辞任していた。

 彼の総統選レース出馬は、世論調査で蔡英文を上回る党内支持度があるためだ。

 12日、池袋のホテルで開かれた講演会を参観した。日本にはすでに「頼清徳後援会」がある。聴衆は約500人。会場は選挙キャンペーンに近い熱気を帯びていた。

 「今、台湾の一番大事な時期だ」。頼氏のメッセージは明快だった。「令和の日本、おめでとうございます」。彼は国家安全保障と自然災害からの防御で結ばれた台日の熱い絆を語った、日台が中国からの脅威にさらされている現実を語った。

 産経新聞とのインタビューでは、国民党が提案している中国との平和協定は、台湾を「第2のチベット」化する危険性を警告した。中国が1951年に締結した協定を守らず、チベット人を弾圧しているからだ。

 彼は「平和協定は台湾にとって災難にほかならない」と語った。そして、対中国の「反浸透法」「反併呑法」の立法を推進する考えを明らかにした。

 頼氏はこのような構想を、来日中に面談した日本の国会議員30人に語ったとみられる。野田佳彦、森喜朗、海部俊樹の3人の元首相とも会談した。安倍首相の実弟・岸信夫衆院議員との会談内容は、首相にも伝達されただろう。

 野党・中国国民党の候補者は、鴻海グループの総帥である郭台銘氏や、昨年の地方選挙でブームを起こした高雄市長・韓国瑜氏らが有力だ。いずれも積極的に訪中し、北京との親近感を売りにしている。

 産経が解説記事で「米中の代理戦争の様相」と書くなど、一部メディアでは注目度が高まってきたが、ほかの日本メディアは相変わらずの台湾不感症を決め込んでいる。

 台湾の世論調査が伝えるところによると、郭氏は「台湾のトランプ」にはなれそうもない。彼の企業利益があまりにも中国本土の変調しており、台湾総統になった場合、「台湾を中国に売り飛ばす」懸念が指摘されている。

 依然として人気なのが、昨年の地方選挙でブームを起こした韓国瑜氏だ。「高雄市長に当選したばかりで、総統候補への転出は選挙民に申し訳が立たない」と辞退を表明したが、これは本心ではない。

 国民党は有力馬の韓氏を総統選候補に仕立てるために、予備選レースの規則を改定してまで、韓氏に執着している。現時点の世論調査では韓氏が人気度トップを走る現状は変わらない。ただ今後、やや野放図な政治スタイルが破綻しだすと、人気が急落する恐れは十分だ。

 このほかに、台北市長・柯文哲氏が無所属で出馬する意欲を見せている。根強い人気があり、大きな変数になり得る。ことほどさように、来年の台湾総統選挙は複雑で混戦模様だが、21世紀の台湾の命運を言って過言ではない。

 しかし、日本のメディアの報道ぶりは異様というしかない。

 講演会翌13日付け朝刊各紙をチェックした。まず産経を読む。1面中央に本記「中国との『平和協定』は災難」と解説の大型記事だ。5面には一問一答も載っている。

 朝日なし、毎日なし、読売なし、日経なし。

 念のために東京新聞を見ると、国際面に「台湾、第2の香港にならない」の写真付き2段記事。次の台湾総統になる可能性がある与党政治家なのだから、この程度の扱いは最低限必要である。

 朝毎読三紙の異様な報道姿勢は、どうしたことか。社説などで説いてやまない「情報の多様性」の欠如を、自ら露呈したような報道ぶりである。地に堕ちたメディアを再生させるのは、至難の技だと警告しておきたい。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

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