2024年04月20日( 土 )

HC市場規模の比較とDIYの現状 背景にある日米のライフスタイルの違い(2)

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さらなるマインドの変化

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 現在のHCだが在庫アイテムは数万を超える。なかにはハンズマンのように20万という、いわば“異常なアイテム数”を展開する企業さえある。稀に数年に1個しか売れない商品もあるが、それでもかまわないというのである。効率化を志向する日本型大型店にこれはできない。小売業の場合、一番大きな経費は原価である。次が人件費。在庫が多いと管理する人手がかかる。だから従業員の受け持ち面積を増やし、在庫を削り込む。買うものがない売り場からますます買うものがなくなる。結果として、日本型大型店はピーク時の30%台に落ち込んだ。

 そんななか、カテゴリーのラインロビングで成長したHCだが、ここにきて不都合な真実に直面している。思うように売上が伸びないのだ。今や大方の既存店舗は成長しない、というのが定番になっている。過去の例から見ても「停滞は衰退の始まり」である。

 その理由は“何でもあり”の手法にある。今のHCには日用品があり、食品があり衣料品があり、家電製品がある。園芸用品もキャンプ用品も室内装飾品もある。しかし、どのカテゴリーにもパワーはない。食品購入を目的にHCに来店する人はまずいないし、キャンプ用品は(株)モンベルや(株)アルペンといった専門店には勝てない。そんな見方をすると、かつての日本型大型店と同じ轍を踏んでいるように見える。

 たとえば家庭の水道栓を取り変える場合の相談をするとき、どのくらいの店舗がその客の要望に応えられるだろうか?テントの設営の相談はどうだろう、家庭菜園のアドバイスはもらえるだろうか?それ以前に、今のHCにはほとんど従業員の姿がなく、相談カウンターもない。「買いたい人は自由に選んで買ってください」というかたちで、売り場にないものは販売できないし、専門的なアドバイスもできない。この状況は大型スーパーと似ている。いくらネットの時代といっても店で専門的アドバイスを受けたいという客は少なくない。とくに高齢者や定年でリタイア後に趣味でDIYや家庭菜園を始めたいという人にそれらのサービスは必須である。

頭打ちの市場をどう開拓するか?

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 HC企業の雄はアメリカのザ・ホーム・デポである。この企業の年間売上は日本円で10兆円を超える。第2位のロウズの売上は7兆円超だ。アメリカと日本の違いが端的に表れる業態がHCだといっても過言ではない。

 その基本になるのが市場規模の違いだ。日本のHCの年間売上は(一社)日本ドゥ・イット・ユアセルフ協会(日本DIY協会)加盟の全企業を合わせても5兆円に届かない。上位3社の売上を合わせてもホーム・デポ1社の約12%だ。

 日本の建築とそれを取り巻く文化の歴史は古く、「モチはモチ屋」のことわざ通り、専門性の高い仕事はもっぱら建築の専門家に依存するというライフスタイルである。その理由は彼らの高い技術と責任施工、妥当な施工料金にある。そのため、自ら住まう家をつくり、メンテナンスをするという人は少ない。

 しかし、アメリカの場合は自分の家は可能な部分は自分でつくり、メンテナンスも自分で行うという人が少なくない。なにせアメリカは日本の約25倍の国土面積である。破損個所のメンテナンスを依頼してもすぐには対応してくれない。家や庭の面積が広く、耐用年数も比較的長い家を快適に使い続けるにはそれなりのメンテナンスが不可欠になるが、職人の工賃が高い割に信頼度はいま1つだ。だからアメリカでは壁のペンキ塗りや水回りの整備といったメンテナンスは自分で行うのが一般的なのである。

 敷地や床面積も日本のそれより広いということもあるが、自分でメンテナンスを行う最大の理由はその住宅寿命にある。日本の耐用年数は30年程度といわれるが、アメリカの住宅はその3倍である。100年以上同じ家に住み続けるには、日ごろの手入れや定期的な改装が欠かせない。しかもできるだけ安価に抑えるということが必須になる。

 考えてみれば、自分の手で好きなように家を建て、部屋をつくり、庭を整えるということは楽しい。事実、そのような人が世の中には存在するし、そこまでいかなくても器用な人は壁や床、あるいは住宅機器の取り付けなど自分で行う人もいるはずだ。そんなニーズに応えるのがアメリカのHCである。

(つづく)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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