2024年04月20日( 土 )

魚食、市場仲卸文化をどう守るか? 安部泰宏・アキラグループ最高経営責任者に聞く(後)

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「仲買人の誇り、生きがい」

 「仲買人の誇り、生きがい」を守るため、安部社長が今後なにを手がけていくのか。「生涯現役」として力を注いでいるのが魚食の普及だ。

 「日本人に合うのはやはり魚ですよ」

安部泰宏・アキラグループ最高経営責任者・
(株)アキラ水産代表取締役会長・社長

 「今はとにかく、魚が獲れない、売れない、買わない」。ここ数年、安部社長の口癖になっているフレーズだ。その原因は、食文化が変わったからだ。安価な肉が流通するようになり、さばくのに慣れが必要な魚は次第に敬遠されるようになった。

 農林水産省によれば、国民1人あたりの年間魚介類消費量は、1988年の72.5kgをピークに、2016年には45.6kgに減少している。この変化は、日本の漁業の衰退に直結している。年間の漁業生産量は、1984年の1,282万tをピークに、2017年には430万tまで減少している。その一方、世界の漁業生産量は、ここ30年ほどの間に、中国を筆頭に増え続けており、16年には年間約2億tと倍増している。世界的には成長産業である漁業で、「日本の1人負け」が指摘されている。

 日本では魚食が年々衰退していく厳しい状況だが、それでも安部会長は「日本人の体に合うのは、やはり魚ですよ」と力を込める。

銀鱗会が実施している魚さばき教室の様子。赤い帽子
をかぶった社員がほぼマンツーマンで手ほどきする。

 アキラグループは18年1月、福岡市内の中学校、特別支援学校の給食として、博多湾で獲れたブリの照り焼き4万食を提供した。一口に4万食と言っても、3160尾のブリを冷凍保存し、不公平感が出ないようすべて同じ量(60g)に成形する必要があったため、その加工作業には、多くの時間と労力を伴った。苦労の甲斐があって、ブリを味わった生徒などからの評判は上々という。「魚食の素晴らしさを知ってもらうためには、子どもたちに実際に味わってもらうのが一番。保存や加工などは大変な作業だが、やっていくしかない」と話す。

 市場内の団体「魚鱗会」では学校給食のほかにも、主婦などを対象にした魚のさばき・おろし方教室を定期的に実施している。最近の若い世代の家庭では、パックに入った切り身を調理するのが大半で、魚をさばけない人間が増えているからだ。パックの切り身は調理の手間を省くための配慮だが、「さばかない」のと「さばけない」のとでは、中身が大きく違ってくる。教室は有料だが、毎回多くの主婦などが参加しているという。

時流に乗った職場環境づくりがカギに

 「今はとにかく人がおりません。」。福岡市中央卸売市場にも人手不足の波が押し寄せている。とくに若者の漁業離れは深刻だ。面接をすると、まず「休日は年間何日ありますか」と質問されるという。「自分の時間を大事にする」といわれる最近の若者像をよく表すエピソードだ。仲卸の仕事は、午前2時ぐらいから朝方までがコア業務時間帯。竸りの担当にでもなれば、自分の都合でホイホイ休みを取ることはできない。そのような業務内容が若者の目にどう映るか。容易に推察できる。昔ながらの徒弟的な人間関係も今は通用しなくなっている。時流に乗った魅力ある職場環境をどうつくるかが、今後のカギになりそうだ。

 アキラ水産では、数年前からベトナム人の雇用を開始。現在6名が働いている。ただ、担当する業務は加工作業がメイン。競りや市場内作業など「言葉を使う」仕事を任せるには、いろいろなリスクをともなうからだ。その加工作業でも、最終的には人手に頼らざるを得ないのが現状だ。アキラグループでは、魚を三枚におろす機械を導入しているが、おろした後の見栄えに問題があり、それだけでは商品にならない。とくに鯛の刺身は、機械加工はムリで、熟練した社員が一枚一枚切る必要がある。

市場という垣根を抜ける。

 「市場の使命は魚を、どうやって流通させるかにあります。仲買の仕事は、市場をうまく機能させるために欠かせない仕事です。卸売市場法が変わって、新しい人が入ってきたとしても、消費者においしい魚を食べていただく方法を追求し続けていきます。」。時には採算度外視で魚食の普及に取り組んできたアキラグループ。福岡市中央卸売市場が今後、どのように生まれ変わるか。安部社長の突破力に期待がかかる。

(了)
【大石 恭正】

 

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