2024年04月16日( 火 )

【ワタミ創業者、渡邉氏が経営復帰】「ブラック企業」の汚名を着せられ~ガムシャラに突き進んできた人生哲学(後)

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 大炎上したのは、2006年5月22日にテレビ東京で放映された『日経スペシャル カンブリア宮殿』での発言である。番組のホストを務める作家の村上龍氏と経済人とのトーク番組で、渡邉美樹氏がゲストに招かれた。ネット上に動画が公開された。若者が「それは無理ですね」ということを批判した発言だ。渡邉の人生観を知ることができる。コピペで再現してみよう。

渡邉美樹:無理というのはですね、嘘吐きの言葉なんです。途中で止めてしまうから無理になるんです。

村上龍:?

渡邉:途中で止めるから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃなくなります。

村上龍:いやいやいや、順序としては、無理だから止めてしまうんですよね?

渡邉:いえ、途中で止めてしまうから無理になるんです。

村上龍:?

渡邉:止めさせないんです。鼻血を出そうがブッ倒れようが、とにかく一週間全力でやらせる。

村上龍:一週間。

渡邉:そうすれば、その人はもう無理とは口が裂けても言えないでしょう。

村上龍:・・・ん??

渡邉:無理じゃなかったってことです。実際に一週間もやったのだから。無理という言葉は嘘だった。

村上龍:いや、一週間やったんじゃなくてやらせたってことでしょう。鼻血が出ても倒れても。

渡邉:しかし、現実としてやったのだから無理じゃなかった。その後はもう無理なんて言葉は言わせません。

村上龍:それこそ僕には無理だなあ。

 渡邉氏のこの発言によって、無理とは言わせずに働かせたから「女性社員の過労自殺が起きた」とネットは大炎上したのである。

 12年2月28日。村上龍氏は、ネットに配信するトーキング時事エッセイ『村上龍、RVR龍言飛語』で、ワタミ従業員の自殺と労災認定について触れた。『カンブリア宮殿』での渡邉氏との対談を振り返り、「自分の感覚とワタミ取締役会長、渡邉美樹氏との感覚のズレにショックを受けた。渡邉氏の意見にどうしていいかわからなくなった」と語った。そして、パン食い競争の漫画を例に出して「パン食い競争に勝つよりも、そのパンをおいしく食べようとする人が好きです」と言った。渡邉氏に対する痛烈な批判である。

 渡邉氏の一連の発言に、あまりにも不見識であるとの猛烈な批判が殺到した。

日本では前例のない「懲罰的慰謝料」を支払う

 ワタミは2012年にブラック企業市民賞、翌2013年にブラック企業大賞を受賞した。「自分の正義のみを重視し、被害女性に一切考慮しない思慮に欠けた発言」が受賞の理由だ。

 ワタミは遺族との面談や謝罪を拒否。女性の遺族はワタミや代表取締役だった渡邉氏に損害賠償を求める民事訴訟を起こした。

 2015年12月8日、東京地裁で和解というかたちで決着した。1つは、東京地裁が、日本では前例がなかった「懲罰的慰謝料」を認め、1億3,365万円を支払うよう求めたこと。2つは、付帯事項として、過重労働再発防止策が盛り込まれたこと。

 「道義的責任はあるが、法的責任はない」と争う姿勢を示していた渡邉氏は、頑な態度を突然翻し、和解交渉の場に現れ、自殺した女性従業員の両親に謝罪した。「自殺した彼女への墓まいりに行きたい」との意思表示をしたが、遺族は墓まいりを拒否した。

 渡邉氏は、おそらくこんなに社会的な批難をうける意味が分からなかったのでないか。渡邉氏の発言には、「これ以上やったら鼻血が出て倒れるという所のもうちょっと上」に設定して走ってきた人生が凝縮されているからだ。発言を否定することは、自らの人生を否定することになる。しかし、「頑張る」という方向性は、人さまざまだということを渡邉氏は理解できなかった。だから、渡邉氏は行く先々で摩擦を引き起こした。

 働き方改革が声高に唱えられる今日、渡邉氏はワタミの経営に復帰する。「365日24時間死ぬまで働け」とハッパをかけるのだろうか。

(了)
【森村 和男】

(中)

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