2024年04月19日( 金 )

エネルギー収支を黒字にする住宅 ZEHの目的と制度(後)

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ZEH普及には工夫が必要~課題はコスト

まだまだ低い普及率

 全国で1年間に着工する住宅の戸数は97万戸、うち56.4%を占める55万戸が木造住宅である(2016年度。経済産業省発表)。そのなかでZEHは約5,000戸。16年度にZEHに関する制度がスタートしたこともあり、初年度としての数字であるから、今後さらに増えることが予想できるが、全木造住宅に占める割合は16年度では1%程度のものだ。住宅の省エネ性能認証ラベルのBELSが用いられた件数でさえ、約1万1,000件にとどまっている。17年9月末でのZEHの戸数はのべ約1万6,000件となっているが、全体に占める割合としては3%程度のものとなるだろう。あるZEHビルダーは次のように語る。

 「やはりコストが高いことがボトルネックになっている。たしかにランニングコストが抑えられること、健康に暮らせることは大きなアピールポイントになるが、私たちの会社ではあまり需要が感じられなかった。ローコスト住宅とコストの高いZEHとでは、私たちの場合は、ローコスト住宅のニーズが高かった。現段階、補助金が得られるからアピールもしやすかったが、今後、それがなくなると厳しい状況に陥るかもしれない」。

 ZEHは高い住宅性能のなかでも、とくに高い省エネ性能が求められる。それゆえ、屋根、壁、窓やサッシなど、外皮に関わる部材も値段の高いものを用いねばならず、また、空気の循環なども考えねばならないために設計にも制約が生まれるなど、ハードルが高い。さらにZEHの場合は、太陽光パネルなど再生可能エネルギー発電機の設置が必要となる。建築コストが高くなりすぎるのである。それに見合う住宅としての魅力があれば普及していくと考えられるが、今のところ、全木造戸建て新築戸数に占める割合は数%程度。17年度までは補助金の対象だったが、今後、それも流動的な状況だ。

 「建築コストに見合う省エネ効果が得られれば、普及もしていくと思うが、今の段階では補助金があってもバランスをプラスにするのは難しい状況だ。高性能な建築材料の低廉化がなければ…」と、先ほどのZEHビルダーは危惧する。

視点はZEHからZEBへ?

 国内で消費されるエネルギーの抑制、それによる温室効果ガスの排出抑制が、ZEH制度開設のきっかけとなったパリ協定の目的である。全エネルギー消費に占める住宅で消費されるエネルギーは産業部門、運輸部門、業務部門より少ない。従って、省エネ・創エネ戸建住宅であるZEHの普及は、全エネルギーの抑制という観点から見ると優先順位が低いものなのかもしれない。

 現在、資源エネルギー庁はZEHのみならず、ゼロエネルギービル「ZEB」(ゼブ)の普及にも注力し始めている。現在、実証事業がスタートを切ろうとしている段階だ。ZEHビルダーにはこれからも目標設定と達成、その報告が義務付けられることとなる。補助ではなく自律的に発展させる素地ができたという判断がなされ、次の課題へ移ったということなのだろうか。

 ZEHの普及は、まだまだこれからだ。市場から標準住宅として受け入れられるためには、コストの問題を解決しなくてはならない。省エネ・創エネは地球規模の課題である。今後、はたして標準化することができるのだろうか。国の動向に注視していきたい。

(了)
【柳 茂嘉】

 
(前)

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