2024年03月29日( 金 )

不動産市場の主要プレイヤーとなったアパグループ のホテル開発戦略(前)

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アパグループ 代表  元谷  外志雄  氏

リーマン・ショック後、東京都心の土地を次々に買収し、すでに23区内だけで52ホテル・1万1,775室を運営するアパホテル。「東京でトップを目指す」戦略が見事に当たり、今や514ホテル・8万5,573室(2019年5月14日現在)のホテルネットワークを確立した。福岡市でも6棟を建築・設計中で、ティーケーピーとフランチャイズ(FC)契約する2棟を合わせ、8棟のアパホテルが福岡で新たに誕生する。「ランチェスター戦略」の信奉者であるアパグループ代表の元谷外志雄氏に、アパホテルの戦略を聞いた。

(聞き手:永上 隼人)

アパホテルプライド〈国会議事堂前〉
アパホテルプライド〈国会議事堂前〉

信金を退職し、住宅会社を起業

 ――アパグループがホテル事業に参入した経緯について、お聞かせください。

 元谷 私は事業家になるべく石川県の小松信用金庫(現・北陸信用金庫)に入社し、しばらくして、成長産業だった住宅事業での起業を決意しました。

 まず注文住宅に着手しましたが、戸毎に設計内容が異なりますし、非常に手間がかかっていました。そこで、まとまった土地を取得し、建売住宅を販売したほうが効率が良いと考え始め、建売を始めました。他社の建売住宅を見ていると同じような設計が並んでいましたので、自社で販売するものはそれぞれが個性をもった住宅とすべく、設計に力を入れました。これが評価され、石川、福井などの北陸地方を中心に拡大していき、会社も稼げるようになっていきました。しかし、当たり前ですが、利益が多くなると、かかる税金も多くなります。

 最初は節税対策のため、賃貸マンションを建設しました。次にマンションを分譲とすることで、さらなる利益を生み出すことができましたが、売却すると償却資産がなくなりますので、決算ごとに節税対策を検討する必要性が出てきました。

 そこで目をつけたのが、ホテル開発です。ホテルには各部屋にテレビや冷蔵庫、ベッドなどの備品があり、これらは消耗品として初年度に一括償却できます。そのため、ホテル開発は節税効果が高いことに気が付いたのです。当時のホテルは、観光需要が見込める週末以外は閑散としていましたが、これからはビジネスマンを取り込み、平日の稼働率を上げることが重要だと認識していました。ビジネスマンにとって使いやすい宿泊に特化したホテルを目指して、ポイントをキャッシュバックできる会員システムを業界に先駆けて採用しました。この会員システムは、第1号ホテルの開業時からスタートし、今や会員数は累計で1,500万人を超えています。その結果、東京のホテルの月間稼働率は100%を誇っています。

バブル崩壊予見し、東京から鮮やかに撤退

 ――バブル崩壊のときはいかがでしたか。

 元谷 バブル当時、アーク森ビル(東京都港区)に本社を構え、東京に一大攻勢をかける戦略を練っていましたが、1987年10月のブラックマンデー後は、「雲行きが怪しい」と感じ取っていました。東京本社は内装などかなりの改装費をかけてまだ間もなかったのですが、潔く金沢市に本社を戻す撤退戦を決行しました。当時、福岡や名古屋にも支店がありましたが、すべて閉鎖しただけでなく、保有していた不動産の多くを売却しました。それから間もなくバブル経済は崩壊。不動産価格は大暴落しました。「売るのが早過ぎる」という意見もありましたが、結果として損失を回避し、逆に大きな利益を得ることができました。

 『勇気ある撤退 それは究極の勝利への 第一歩』これが私の座右の銘の1つです。事業家が失敗する要因は、先の見通しを誤り、過大投資に走ることです。無理に規模の最大化を図るべきではありません。結果として売上や利益が最大化すれば問題がないのですが、最大化を目的にすると、いずれ破綻します。ダメなときはスッと引くべきです。このような決断ができるのも、私がアパグループの経営者であり、オーナーだからです。

 ――それから東京に再進出をはたしますね。

 元谷 国内最大のホテル市場は、やはり東京都心です。ですから、一度は撤退した東京市場ですが、再進出の機会は常にうかがっていました。バブル崩壊後とはいえ、北陸から見ると東京の駅近の土地は高い。そこで、まとまったきれいな整形地ではなく、比較的安く買える変形地に目をつけたのです。97年7月、JR板橋駅前に東京第1号ホテルを建設しましたが、一般的にホテル開発は検討されないような変形地でした。そこで生きたのが、かつての注文住宅での経験です。

 注文住宅では、変形地でも施主の要望に応じて、柔軟に設計することが求められていました。変形地での設計は、当時の経験があったからこそできたのだと思います。“都心の駅近く”というのは、弊社がホテル開発を検討する必要条件です。そのために、整形地である必要はまったくありません。要は、どのくらいの客室数のホテルを建てられるか、が大事なのです。

 この板橋のホテルは変形地ですが、駅から近い好立地でした。ホテル経営において駅近というのは、大きなアドバンテージです。この点にはこだわっており、都内のアパホテルは平均して駅から徒歩2.5分に立地しています。

(つづく)
【長井 雄一朗】

<Company Information>
アパグループ

代 表:元谷外志雄
東京本社:東京都港区赤坂3-2-3 アパグループ赤坂見附本社ビル
売上高:(18/11連結)1,339億円
TEL:03-5570-2111
URL:https://www.apa.co.jp

(中)

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