2024年04月19日( 金 )

板門店で米朝首脳会談~助手席に転落した文在寅大統領・運転席はトランプ大統領に交代

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 6月30日に板門店で行われた第3回米朝首脳会談は、朝鮮半島非核化協議の主役がトランプ米大統領であることを見せつけた。トランプは大阪でのḠ20直前に行われた習近平・中国主席の初めての北朝鮮訪問の効果も帳消しにした。

 米国との対話パイプを維持したい金正恩氏が、板門店での会談を呼びかけるトランプのツイッターに飛びついたのである。文在寅氏が呼号してきた「朝鮮半島の運転者論」が破綻したことを映像付きで示す結果にもなった。

 「文大統領『朝鮮半島の運転者論』に自信のぞかせる」

 昨年3月13日、政府系ハンギョレ新聞にこんな見出しの記事が載った。北朝鮮との第3回首脳会談開催の合意を受けて、文政権が最も上げ潮ムードの入っていた時期だ。「朝鮮半島の運転者論」というのは、自らが半島の安定と平和の主導権を握り、行く先を決定するという自負心を反映している。

 次に、今朝のハンギョレの記事を見てみよう(7月1日付け)

 「文大統領が”お膳立て”した板門店の『脚本のないドラマ』、朝米対話促す”助力者”の役割に徹する」

 脚本がないのに「お膳立て」とは、これいかに。そう突っ込みたくなる記事だが、今回の板門店会談で主役はトランプ、相手役が金正恩、脇役が文在寅だったことは、この記事も認めている。軍事境界線での米朝イベントに文氏の姿は見えず、首脳会談の背景にも韓国国旗はなかったからだ。会談が終わり建物から出てきた時に、文氏は登場するのが精一杯だったのである。

 今回の米朝首脳会談は、双方の国内事情が強く反映していた。トランプは来年の大統領選挙を意識して、点数稼ぎをする必要があった。金正恩は期待していたハノイでの会談が不調に終わり、交渉の立て直しを迫られていたからだ。文在寅は両国首脳のパフォーマンスに「場所貸し」をしたと見るのが、客観的な評価であろう。

 事務レベル再開されることになった非核化交渉が、すんなりと進むとは周辺国も含めて誰も思っていない。パイプを繋いでおくことが重要だと米帳双方ともに考えているからだ。

 板門店会談が行われた6月30日、産経新聞が重要なニュースを伝えた。徴用工問題の韓国政府対応に業を煮やした安倍政権が、半導体やテレビ、スマートフォンにの製造に欠かせない先端材料3種の韓国向け輸出規制に踏み切るとの方針を伝えたのだ。

 フッ素ポリミイドなど先端材料3種は日本が世界市場の70〜90%を占める。1日の朝鮮日報は「(対韓報復が実施されると)米中のはざまで揺れたファーウェイ制裁問題の余波の10倍近い影響を受ける」と警戒した。

 最近の朝鮮半島情勢を見ながら顕著に感じられるのは、文政権の影がみるみるうちに薄くなっていることだ。北朝鮮非核化や徴用工問題など政府レベルで対応すべき問題に手をこまねくだけなのだから、それは当然ともいえる。

 文在寅政権は「朝鮮半島の運転席」から助手席に交代した。次の段階では金正恩が助手席に座り、運転席のトランプとドライブする光景が見られることだろう。今のままでは文在寅氏はこれといった成果を挙げられないまま、5年間の任期切れで、車から降りざるを得ない状況になる公算が強い。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

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