2024年04月19日( 金 )

宿泊税導入で本当に観光振興できるのか?(前)

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「小競り合い」として全国の注目を集めた福岡県、福岡市(以下、県市)の宿泊税問題。5月24日、小川洋知事と高島宗一郎市長のトップ会談により、市内の課税額を原則200円とし、県が50円、市が150円それぞれ課税することなどで合意した。

 今後、議会での議決や総務大臣の同意、宿泊事業者の徴収準備などがスムーズに進めば、来年6月頃、全国初の県市二重課税による宿泊税徴収がスタートする見通しだ。両者の合意を横目に、同月29日には、北九州市も独自課税に後出し的に名乗りを上げ、三つ巴の様相を呈してきた。納税者である宿泊者にとっては、払う先がどこの自治体だろうと大して重要ではないが、課税するほうにとっては、競い合ってでも自分の懐に入れたいものらしい。県市はなぜ揉めたのか。宿泊税導入によって、県内観光にどういう影響があるのか。検証してみた。

宿泊税は02年に東京都でスタート

 宿泊税は、納税者が基本的に宿泊者のため、住民からの反対が少なく、通常の法定外税に比べて課税しやすいという特徴がある。煩雑な徴収作業を、宿泊事業者任せにできるのも利点だ。支払い拒否などによる徴収漏れなどが発生しても、宿泊事業者に責任転嫁できる。自治体にとって都合の良い税金のはずだが、最初の導入から17年経った現在、導入済みの自治体はわずかに4つ。検討中の自治体があるとしても、「全国で導入が進んでいる」といえる数字ではない。その理由には、宿泊事業者などの反対、観光客減少への懸念、労力の割に大して増収にならないこと――などが考えられる。

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 2002年、東京都が全国で初めて宿泊税を導入した。その後、17年に大阪府、18年に京都市、19年4月に金沢市で導入されている。北海道の倶知安町では19年11月から導入予定だ。宿泊料金の課税区分、課税金額は自治体ごとに異なるが、宿泊料金2万円までの課税額はいずれも200円、1%課税になっている(倶知安町を除く)。福岡県市が合意した原則合計200円の根拠は、ここにある。

 最も宿泊者数が多いと思われる宿泊料金7,000円までの課税を見ると、東京都と大阪府は非課税で、うち東京都は1万円まで非課税だ。宿泊客や宿泊事業者への配慮がうかがえる。一方、京都市や金沢市は、宿泊料金に基づく非課税はなく、すべての宿泊客に200円以上を課している。観光地ならではの強気な設定といえる。とくに京都市の場合、宿泊料金5万円以上への1,000円課税は突き抜けている。ただし、修学旅行は非課税。このあたりは土地柄が出ている。年間の税収は、東京都が約25億円(18年度当初予算ベース)、大阪府が約8億円(同)、京都市が約46億円(試算ベース)、金沢市が約7億円(同)となっている。

 福岡県内の宿泊者数は年間約1,700万人(17年確定値)。ここ数年微増傾向にあり、都道府県別で全国10位だ。外国人観光客は約300万人で、そのうち52%を韓国人が占める。県内市町村別の宿泊者数(従業員10人以上の宿泊施設分)を見ると、約1,478万人のうち、福岡市が47%の約688万人とダントツで、北九州市が12%の約180万人で続く。客室数(県内約5万室)で見ると、福岡市が約53%、北九州市が約19%で、両市で70%以上を占める。

 今のところ、県市から年間税収額は出ていない。過去の宿泊者数に税金をかけ合わせると、いずれも約18億円という数字になるが、“捕らぬ狸の皮算用”の域を出ない。税金の使途について、福岡県では県主体事業として、宿泊施設の洋式化・バリアフリー化、インバウンド誘客キャンペーンなどを行う。福岡市では、MICE施設の機能強化、Wi-Fiの整備、観光案内強化などを行う考えだ。

 県内一律200円が原則で、税率区分を設けない福岡県は、「宿泊者が享受する行政サービスの受益の程度は宿泊料金にかかわらず同等」という独自の考え方に立ったものだといえる。徴収の手間が省けるし、形式的な平等は保たれる。

 2万円未満150円、2万円以上450円とする福岡市は、県税を含めれば金沢市とまったく同じ区分だ。徴収の手間はそこそこで、納税者の負担感の平等にも配慮したかたちになる。1万円以下のコアの宿泊料金を非課税にしない点は、県市とも共通している。非課税にすると、単純に税収が減るからだ。徴収逃れの逃げ道にもなりかねない。

 徴収した税金の取り扱いは、県市では異なる。福岡県の場合、200円のうち半分は県主体事業分、もう半分は市町村への交付金として、基本的に60の市町村に配分される。どの市町村にどれだけの割合で配分するかは未定だが、市町村が課税した場合、その市町村に交付金は配付されない。福岡市が徴収した税金は、すべて福岡市が自主的に使う。

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福岡市が条例可決、「小競り合い」が本格化

 先行して宿泊税導入に着手したのは、18年7月に検討会議を開いた福岡県だ。県の動きを受け、福岡市では同年9月議会に、市議会の有志議員により宿泊税を盛り込んだ観光振興条例案が提出され、可決された。10月に入ると、市も宿泊税に関する調査検討会を開く。この間、高島市長は、県に対して二重課税を避けるよう求める意見書を出している。条例をタテに、市が逆手を仕掛けたカタチだ。11月には、それぞれが諮問した報告書がまとまった。

 この段階では、福岡市は市単独の200円で、県による課税は除外を主張。これに対し、福岡県は県100円を主張し、市課税分を加えると、合計300円になる。市にしてみれば、「なぜ県が市に手を突っ込む」という話であり、県のほうでは、市から徴収しないと、税収が半減してしまうという話になる。双方が主張を譲れないのは当然のことだが、福岡市分だけ県は課税しない、あるいは福岡市分だけ課税額300円になった場合、それで良いのかという問題が残る。そこで両者は事務レベルの協議に入った。

 両者による6回におよぶ交渉の経緯は公表されていないが、「納税者の負担を考慮し、総税額を200円に抑えること」について合意した。200円以上の課税は、先行自治体を上回る超強気の設定になってしまう。回避するのは当然だろう。

 5月、両トップが会談し、双方による課税、課税額は、原則県50円、市150円などについて合意した。双方、関連条例案を6月議会に上程する。「原則」の意味は、市が2万円以上に450円課税することに県は関知しないということを指す。「市が課税自主権に基づき450円課税することは、合意内容に含まれていない」(福岡県担当者)と話す。福岡市の担当者は「合意した内容がすべて。それ以外のことは市として粛々と作業を進めていく」としている。

 ここで、「先行した自治体では二重課税は問題にならなかったのか」――という疑問が湧く。大阪府の担当者によれば、同じ政令市を抱える大阪府だが、導入の際に「府と市がとくに協議したということはなかった」そうだ。同じ大阪維新の会の首長同士なので、揉めなかったのだろうと思っていたが、大阪府が導入を検討した当時は、「先行事例が東京都だけだった」ことが大きく影響しているそうだ。京都市が導入した際も、京都府とは「とくに話し合いはなかった」(京都市担当者)と話している。

(つづく)
【大石 恭正】

(後)

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