2024年04月19日( 金 )

LIXILグループの経営混乱、最大の元凶創業家・潮田洋一郎氏の「趣味人経営」に喝!(後)

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なぜ、日本脱出を計画したのか

 潮田氏はなぜ、日本脱出を計画したのか。自身の生活拠点をシンガポールに移しているが、その背景にあるのは、潮田家と国税当局との長年にわたる確執があると、関係者の見方は一致する。

 93年、トステム(現・LIXIL)創業者、潮田健次郎氏の兄、猪一郎氏が亡くなった際の相続で、創業家は33億円の追徴課税を支払った。

 14年12月、トステム創業家の脱税問題がメディアを賑わした。創業者の健次郎氏は、保有する住生活グループ(当時)株を売却して得た220億円を、潮田家の資産管理会社に移した。11年4月に健次郎氏が亡くなり、この資産管理会社の株式を長女敦子氏が相続。長女は相続財産を資産管理会社の評価額にあたる85億円だと申告した。

 国税は、資産会社の価値を実際より低く申告したとみなし、過少申告加算税を含めて60億円の追徴課税を命じる「更正処分」を下した。長女は、保有していた財産から60億円をキャッシュで支払ったという。

 芸術家のパトロンとして知られる敦子氏は文化事業に資金を投じるために、こうしたやりくりをしたのだが、国税は脱税と見なした。

 自らも粋人である洋一郎氏は、文化事業に理解がない日本政府に腹を立てた。「日本では納税するつもりはない。いずれ国債は暴落し、日本は破綻するだろう」と公言してはばからなかったという。そこで、シンガポールへの本社移転を計画したのだという。こよなく風流を愛でる御曹司のご乱心というほかはない。

父親の叩き上げ人生に対するコンプレックス

ワンマン経営者の長男は、2つに大別される。分をわきまえずに父親を超えようと無理を重ねるタイプと、最初からスポイルされて情熱を喪失してしまっているタイプ。洋一郎氏は前者だった。

 父親の潮田健次郎氏はトーヨーサッシという小さなアルミサッシ会社を、一代で日本最大の住設機器メーカーに育てた立志伝中の人物で、建材業界の「買収王」といわれた。

 勘と馬力で日本一のサッシメーカーを築いた健次郎氏の叩き上げ人生に対するコンプレックスからだろうか、洋一郎氏は商売一筋の父親とは対極の趣味に走る。その趣味はハンパではない。歌舞演劇の古典、小唄・長唄・鳴り物(歌舞伎で用いられる鉦、太鼓、笛などの囃子)、茶道具、建築にわたるうんちくは玄人はだしと評されている。

 そんな趣味人経営者の、父親を超えようとする勇壮な構想が、日本脱出、シンガポール移住計画だ。MBO資金を提供する投資ファンドも決めていた。瀬戸氏追い落しを目論んだ「院政」作戦は失敗に終わったが、あきらめたわけではない。今度は、前CEOの潮田洋一郎氏とCEOに復帰した瀬戸欣哉氏との壮絶な戦いが始まる。

 6万人のグループ従業員のために進言しよう。「潮田洋一郎さん、経営から引退し、シンガポールで趣味三昧の晩年を過されたらどうですか」

(了)
【森村 和男】

(中)

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