2024年04月23日( 火 )

宿泊税導入で本当に観光振興できるのか?(後)

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北九州市も課税検討開始

 県市の合意を受け、北九州市も宿泊税の導入を本格化させる。6月中に検討委員会を設置し、早ければ9月議会までに答申をまとめる見通しだ。具体的な内容は検討委で議論されるが、北橋健治市長は、県市が合意した内容を基本に検討を進めると明言。「スピード感をもって進めたい」と力を込めた。福岡市とまったく同じ内容での課税になる可能性が高い。17年度実績をベースに単純計算(約180万人×200円)すると、約3億6,000万円の税収になる。税金の使途としては、北九州空港の観光振興強化などが考えられる。

 問題は、施行までのスケジュールだ。北九州市では、県市と同じく、東京オリンピック・パラリンピック開催前の2020年6月頃の施行を目指している。北九州市が条例案を議会に提出するのは、早くても12月議会になる見通しだ。

 先行自治体では、総務大臣の同意、宿泊事業者の準備、周知などに1年程度の時間をかけている。京都市や金沢市は総務大臣の同意を得るのに際して、協議開始から3カ月程度を要している。12月議会で条例が可決した場合、半年足らずしかない。「時間はないが、動かざるを得ない」(北九州市担当者)と話している。

 北九州市は、検討委での議論のかたわら、県市との協議なども同時並行的に行っていく考えだ。「すでに福岡県とは毎日のように連絡を取り合っている」(同)という。県市、北九州市が独自に宿泊税導入を進めるより、3者が連携して作業を進めるほうが、結果的にスムーズに事が進む可能性がある。

 宿泊税を導入している自治体は今のところ4自治体に過ぎないが、福岡県を始め、本格的に導入を検討している自治体は増えつつある。先行する4自治体は、都府県または市の単独課税ばかりだが、県と市が二重課税する福岡県の課税モデルが実現すれば、追随する自治体はさらに増えると思われる。6月に入ると、早速札幌市が導入検討を表明した。実現すれば、北海道と市による二重課税になる。福岡県の事例を参考にしたのは明らかだ。

宿泊税を徴収できないトラベルサイト

 宿泊に際し、トラベルサイトなどで宿泊先を探し、予約を入れる宿泊客は少なくない。ところが、サイトの宿泊料金には宿泊税は含まれていない。別途宿泊税を支払う必要がある旨を告知するのみのサイトがほとんどで、海外サイトには告知がないサイトもある。利用客は、サイト上で決済した後、宿泊税のみチェックイン時に別途支払うことになるわけだが、これが支払い拒否などのトラブルの原因になっている。

 京都市では、ゲストハウスなどの安宿(2,000円〜3,000円程度)に海外のバックパッカーなどが宿泊しようとした際、フロントで宿泊税を初めて知らされて、支払いを拒否するケースが発生している。2,000円程度の宿泊料金に対し、200円の課税は宿泊者の負担感が大きい。課税するのは市だが、徴収するのは宿泊事業者だ。言葉の通じない客に対しても、宿泊税について説明し、徴収する義務がある。徴収漏れがある場合、宿泊事業者が肩代わりするハメになる。宿泊事業者の負担感も大きい。宿泊税によって余計な手間が増えたうえ、客にも逃げられてしまうとなると、踏んだり蹴ったりの状態だ。

 京都市では、そのようなトラブルを回避するため、サイト予約時に宿泊税を宿泊料金に含めるよう、サイト運営会社と協議を行っているが、運営会社サイドは「対応は難しい」と回答しているという。サイトで宿泊税を徴収すると、宿泊税納税に関する情報を宿泊事業者ではない第三者である市に提供することになる。これは、宿泊事業者の個人情報の漏洩に該当し、会社の規定に抵触するというのがその理由だ。博多や天神界隈には、低価格のカプセルホテルなどの安宿がある。非課税を除外する県市も、避けては通れない問題だ。

観光振興の成果を出せるかがカギ

 当然ながら、宿泊税導入は、手段であって目的ではない。しっかりと徴収した税金を観光振興のために使い、成果を出す必要がある。大阪府では導入後、当初見込んだ税収を確保できず、非課税とする宿泊料金区分を1万円から7,000円に引き下げた。京都市では「宿泊税逃れ」を避けるため、全国で初めて料金区分による非課税をなくした。昼間京都市内を観光して、他の自治体に宿泊する客は一定数いるだろう。京都市や金沢市にしても、試算通りの税収を確保できるかどうか、定かではない。

 「税収が増える」と勇み足で宿泊税を導入したものの、宿泊者や宿泊事業者の不興を買ったうえに、思ったほど税収が増えず、観光振興に費やす予算も捻出できずに看板やポスターなどでお茶を濁す――。これでは何をしているのかわからない。宿泊税導入検討には、担当職員の人件費を始め、それなりの行政コストがかかるはずだ。県と市が揉めれば、なおさらだ。宿泊税の導入には第三者による検討が行われたが、導入後の使途や効果などについても、市職員によるお手盛り評価ではなく、第三者の目でチェックを受ける必要があるだろう。宿泊税を導入する以上、“きちんと成果を出す”という覚悟が、自治体にあるのかどうか。宿泊税の成否は、その点にかかってくると思われる。

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(了)
【大石 恭正】

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