2024年04月25日( 木 )

固い「石」で貫き通した「意志」が故郷の「山」を救う試みに結実する(後)

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Anny Group KFT(株) 代表取締役 二枝 崇治 氏

18年は「ビジネス元年」施工数増やし海外雄飛も

「光冷暖」を導入している、福岡銀行大橋支店

 「石の癒」の教訓は、もう1つ生きている。それはビジネスを拡大するスピードを上げすぎないこと。「施工件数が1,000件を超えるまでは、研究8割・販売2割の配分で進めてきた。さまざまな条件の建築物に光冷暖を導入してきましたが、正直うまくいかなかったケースもありました。ここで焦りすぎると、積み重ねた実績がゼロになってしまう」。かつて「石の癒」で切り拓いた岩盤浴市場が、粗悪な模倣店が跋扈することで結果的に一気に縮小してしまったことを踏まえているのだ。

 「18年は、弊社にとってビジネス元年。中国など海外進出を積極的に進めていきます。蘇州にモデルルームを設け、上海、大連、北京、寧波、成都に代理店を置いて拡販に努めます」。

 環境や健康に気をつかう人々が増えてきた中国では、聞けば誰もが知るような大企業から引き合いが来ているという。また、販売拡大に向け、現在アウトソーシングしている機器の製造を自社で行うことも検討しているとのこと。

 「今の光冷暖は、新たに住宅を建てたり、リフォームしたりする場合に検討していただくもの。家電量販店にディスプレイして、通りがかったお客さまに『あ、これこれ!』と言っていただくには至っていません」と現在の普及状況を捉える二枝氏。では、そのときはいつ来るのだろうか。

 「今、エアコンに比べると導入時のイニシャルコストは約4倍かかります。そこまで普及が進むためには、2倍程度までに抑えなければいけません。そのためには、年間1万物件に施工できるように進めていきたい。1物件に2台導入すれば2万台になりますから、量産効果が計算できるようになってくる。将来的には年間10万物件、そして100万物件まで行けたなら、エアコンと変わらない価格でお届けできるようになるでしょう」。

 現在4倍あるというイニシャルコストの差も、「病院のように24時間空調を動かし続けるような場合だと、ランニングコストの差で5年あれば回収できます」という。

 現在、光冷暖の施工実績は千数百件。金融機関では、福岡銀行の大橋支店に導入されている。また、同社の代理店を務める照栄建設(株)は、全室に光冷暖を導入したマンションをすでに2棟建設。さらに光冷暖を一部居室に導入したマンションが続々と建設予定だ。「マンション以外にも、商業施設、金融機関、最近は病院での導入例が増えています。さらに保育園や小学校などの教育機関。教室や体育館にもエアコンが1台もない、オール光冷暖の小学校も登場しています」と、二枝氏は意気軒昂。農業など他分野への進出にも意欲的だ。

Anny Group本社社屋横で建設中の「光冷暖ホテル」

 「弊社の企業理念は、まだ世の中にないもの、そして世の人々が健康で豊かに暮らすことができるようにするものを発見し、提案していくこと。健康が絶対です。35年前からこの理念を貫いてきました」。米ニューズウィーク誌では「地球を救う中小企業ベスト100」に選ばれるなど、その理念がついに実を結びつつある。

 現在、福岡市博多区店屋町の本社社屋隣では、「光冷暖ホテル」を建設中(18年8月オープン予定)。全25室の客室を含むホテル全館に光冷暖を採用し、エアコンゼロを実現した世界初のホテルとなる。「ビジネス元年」を迎えた同社が、さらなる勝負に打って出る象徴としてふさわしい。

 また、多くの外国人観光客が訪れる京都・鞍馬寺の門前にモデルハウスを設けた。海外から日本に訪れる賓客をもてなすには、誰もが知る古都・京都にモデルハウスがあるべきという二枝氏の思考は、すでに国境を越えて雄飛している。

「石」の恩を「石」に返す、炭鉱跡地を未来環境都市へ

 そして二枝氏は、自分を育んだ炭鉱跡地を再生するための試みをスタートさせた。50年間手つかずだったボタ山を再生し、「未来環境都市」へと生まれ変わらせるためのプロジェクトだ。1月20日に行われた「未来環境都市協議会設立シンポジウム」では、開会挨拶に九州大学総長の久保千春氏、来賓挨拶に衆院議員・前地方創生相の山本幸三氏が立ち、隈研吾氏も基調講演を行った。発起人を務める二枝氏は「これまでもボタ山を再開発する計画はあったが、どの計画もまずボタ山を撤去するところから始まっていた。たしかにボタ山はもともと石炭を採掘した後の捨て石置き場だが、私たち地元で育った者からすれば欠かせない故郷の風景。それを生かした再開発という計画だからこそ、地元の理解や自治体からの協力も得られたのだと思う」と語る。

 「石」から生まれた二枝氏のビジネス人生は、さまざまな起伏を経てまた故郷の「石」へと還る。自然との共生、スポーツ施設、ビオトープ……「石」が育んだ夢が今、ボタ山の再生というかたちで花開こうとしている。

(了)
【深水 央】


●「光冷暖」全室導入マンション「A style Muromi」(福岡市早良区室見)
福岡市早良区にあるA style Muromi。全室に光冷暖を導入した、初の「光冷暖マンション」である。事業主は照栄建設(株)。専有面積32m2、12.8畳のワンルームに8翼のラジエーターとヒートポンプ室外機をそれぞれ1基設置。「おかげさまで現在満室です」(照栄建設担当者)とのこと。ペット飼育可の同マンションには、風を使わない空調である光冷暖は好適。通常のエアコン設置マンションと比べ、施工面ではラジエーターへの配管に断熱材を巻く必要があることなど通常のエアコンよりも作業工程は多いが、「光冷暖の良さは体験すればわかる」(同担当者)。今後、知名度が向上すれば、さらなる「光冷暖マンション」の登場にも期待できる。

●京都・鞍馬にある「光冷暖」のモデルハウス
千年の古都・京の奥座敷、鞍馬。京都都心から叡山電鉄に揺られて30分、山間を抜けた列車が到着する終点・鞍馬駅から鞍馬寺・仁王門までのささやかな門前町に、モデルハウスは溶け込むようにたたずんでいる。牛若丸の伝説で知られる鞍馬には、革命児・二枝氏の事業家魂を沸き立たせるものがあるのだろう。

 
(前)

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