2024年04月19日( 金 )

観光のまち太宰府を後押しする 天の恵み「令和」というチャンス(前)

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太宰府市長 楠田 大蔵 氏
太宰府市観光協会 会長 不老 安正 氏

今年5月1日より、「令和」の時代が始まった。その「令和」発祥の地として、一躍全国的な脚光を浴びている太宰府市は、太宰府天満宮を始めとした多くの魅力的な観光資源を有し、年間観光入込客数は1,000万人を超える。すでに観光地として県内随一・全国屈指の知名度を誇っている同市ではあるが、新元号を契機としてさらなる飛躍が期待される。今回、太宰府市長・楠田大蔵氏と、太宰府市の発展に多方面から尽力し続けている太宰府市観光協会会長・不老安正氏に、新たな時代において同市がどのような施策を打っていくべきか、話を聞いた。

(聞き手:弊社代表・児玉 直)

<プロフィール>
楠田 大蔵(くすだ・だいぞう)

1975年4月、福岡県筑紫野市出身。東京大学法学部を卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行するも退職し、羽田孜・元総理の秘書として政治の道に入る。2003年に第43回衆議院議員選挙に初出馬し、28歳で初当選。衆議院議員を3期務めた。18年1月に行われた太宰府市長選で当選し、市長に就任した。

<プロフィール>
不老 安正(ふろう・やすまさ)

1944年1月生まれ。(株)かさの家の代表取締役を務めるほか、(公社)福岡県物産振興会会長や太宰府市観光協会会長など数々の要職を兼任。2016年6月には、自身がホスト委員会委員長を務めた「第99回ライオンズクラブ国際大会」を福岡市に誘致し、日本の良さや「フクオカ」の名を世界に強くアピールした。さらに、1988年開催のソウルオリンピックに出場したクレー射撃オリンピアンという一面ももつ。

「令和」発祥で注目

 ――「令和」発祥の地として、新たなスタートを切るチャンスです。この機会に、改めて太宰府市の歴史を検証しつつ、いかにして観光収入へと結びつけていくのか。また、太宰府のエリアとしてのブランディングを、今後どのように考えていくのか。お2人のご意見をお聞かせください。

 楠田 市としても、この新たな時代の幕開けを、市民とともに喜びながら迎えていきたいと考えておりました。新元号が太宰府と深い縁があることに、市長として大変光栄に思っておりますし、太宰府市民にとっても、誇りとなっていくでしょう。

 市としては、この“新元号発祥の地”として注目されていることを絶好の機会として、ぜひともさらなる飛躍をはたしていきたいと考えているところです。ですが、そのためには、解決しなければならない課題もいくつか抱えています。

 まず、本市の一番の強みである観光面についてです。現状、菅原道真公をお祀りして“学問の神様”として親しまれている「太宰府天満宮」や、東京・奈良・京都につぐ4番目の国立博物館である「九州国立博物館」などを中心に、本市にはインバウンドも含めて毎年多くの観光客の方々にお越しいただいております。しかし、残念ながら滞在時間が長いとはいえず、地元への経済効果としては限定的になっています。

 また、観光客の増加はありがたいのですが、慢性的な交通混雑の発生やトイレの汚れ、さらにゴミの投棄問題など、観光地として改善していかなければならない課題は少なくありません。そうした諸問題を解決したうえで、1,300年を越える「太宰府」の悠久の歴史を余すことなく味わっていただけるような工夫を検討していかなければなりません。

 不老 楠田市長がおっしゃるように、やはり滞在時間を伸ばすために、広域観光を目指していかなければなりません。市内には天満宮や九国博を始め、「大宰府政庁跡」や「竈門神社」「観世音寺」「宝満山」、そして令和のゆかりの地として一躍脚光を浴びている「坂本八幡宮」など、実に多彩な名所・旧跡や観光スポットがあります。ただ、それぞれの場所をスポット的に訪れるのではなく、多様な史跡を楽しみながら各所をめぐる、観光客が市内を回遊できるようなまちづくりを進めていかなければならないのではないでしょうか。

 観光に垣根はありません。太宰府市が単独で取り組むのではなく、近隣の筑紫野市や大野城市などを巻き込んだツアー企画も面白いでしょう。たとえば、太宰府市内の名所・旧跡などをゆっくりと堪能してもらった後で、宿泊は筑紫野市の二日市温泉でゆったりと過ごしてもらう―といったプランも魅力的だと思います。

 ――すでに太宰府市には、年間観光入込客数1,000万人という観光基盤があります。そのため、一から人を呼び込むことに尽力する必要はなく、要となる場所に観光投資を行っていけば、自ずと観光客の滞在時間を長くすることも可能なのではないでしょうか。

 不老 おいしいものがあって、買い物ができて、時間を費やして―というのが、旅の醍醐味だと思います。坂本八幡宮を訪れる観光客は、そのほとんどが太宰府天満宮にも訪れているようで、皆さま口々に「坂本八幡宮まで行ったから、せっかくなので天満宮にもお参りに来ました」「梅が枝餅を食べたいから来ました」などとおっしゃっており、観光地が観光客を通して交流している状態です。楠田市長にリーダーシップを発揮していただき、太宰府天満宮と坂本八幡宮の動線上にお店をつくるほか、交通網の整備を進めていけば、さらに活気が出るでしょう。市長にはそうした新たなまちづくりを、ぜひともお願いしたいですね。

滞在型の観光を目指す

 楠田 かねてより「大太宰府構想」という積極的広域連携の構想を掲げてきました。これまで筑紫地区、朝倉地区で活動して改めて感じていたのですが、太宰府市だけにとどまらない、旧筑紫郡地域や旧朝倉郡地域、福岡市、糟屋地域における広域展開を実行すべきだと考えています。不老会長がおっしゃったように、太宰府市で観光していただき、周辺地域で宿泊するなど長期の滞在をしていただくことで、相乗効果が生まれ、これまで以上の盛り上がりを見せていくのではないでしょうか。

 市としましては、太宰府天満宮とその参道や九州国立博物館に来られた方々に、大宰府政庁跡にも足を運んでいただけるようにしたいですね。つい先日、政庁跡前でバス専用の駐車場の整備が完了したばかりですが、これを生かして「大太宰府」の観光拠点の1つとしていきたいです。

 不老 楠田市長が提唱する「大太宰府構想」の枠組みで考えると、二日市温泉での宿泊には可能性を感じます。旅館・大観荘ができた当初は、多くの宿泊客が利用されていました。あれだけの敷地ですから、アイデア次第でさらにすばらしい宿泊施設になるでしょう。大丸別荘も歴史があります。

太宰府駅

 また、九州国立博物館ができたときに、「まるごと博物館構想」が打ち立てられました。これは、文字通り太宰府市全体をまるごと博物館にしようというものでしたが、残念ながら、現在までに実現には至っていません。玄関口となる駅をつくらないとダメだからです。駅というものは単なる交通拠点だけでなく、観光客の皆さまが休息するところでもあり、駅があって初めて観光の枝葉が伸びていきます。さらに、駐車場ができれば、周辺に店ができます。筑前国分寺跡から、大宰府政庁跡や太宰府天満宮へとつながるネットワークができるのです。市が音頭をとれば、地域の発展に自ずと道筋がつきます。

 たとえば、観世音寺の広い土地に駐車場をつくれば、歩いて太宰府天満宮に行けますし、交通渋滞の緩和にもつながります。そうした知恵は、官―つまり行政だけでなく、産学民も一体となって出し合えばいいのです。国内の観光客数は、京都市が最多で5,500万人。奈良市は1,400万人、太宰府市は1,000万人です。奈良や太宰府は、京都よりも古い1,300年もの歴史があるまちです。京都に比べて太宰府市が足りないのは、協力体制とアイデアです。

 また、楠田市長が滞在型の観光を目指すということでしたが、西日本鉄道(株)が古民家を利活用した宿泊施設を、今秋の営業開始予定で準備を進めています。そのことも、より多くの歴史的観光資源に観光客の足を伸ばす後押しをしてくれると思います。

(つづく)
【内山 義之】

(後)

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