2024年04月20日( 土 )

変わらないために、変わり続ける―― 令和の時代に太宰府天満宮がはたす役割とは(後)

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第40代 太宰府天満宮 宮司
西高辻  信宏  氏

 鮮やかな赤色が目を引く太鼓橋

 ――交通という一側面からだけでも、大変興味深く歴史を学ぶことができます。

 西高辻 2005(平成17)年に九州国立博物館が開館しましたが、なぜ太宰府に国立博物館ができたのか、これも歴史から学ぶことができます。

 1873(明治6)年に、私の高祖父らによって開催された「太宰府博覧会」は、いち早く太宰府天満宮の宝物などを一般に公開する先駆的な試みでした。その後、九州の文化財が東京や関西などに流出していくなかで、そのことを憂い、地元のものは地元で護り公開していく「鎮西博物館」を、当宮の境内に建設する構想を提唱しました。この計画は、内務省の許可も得ておりましたが、日清・日露戦争の影響により、やむなく中止となってしまいます。しかし、この想いは代々の宮司に受け継がれ、地元政財界や市民の方々のご尽力により、120年以上の時を経て、九州国立博物館の開館として実現いたしました。

 太宰府の“今”は、こうした歴史の積み重ねのうえにあります。未来にも、この歴史やその背景にある想いを繋げていくことが大切です。

 これからも、太宰府のより良いまちづくりに寄与できるように、多くの方々と協力し、これまで以上にさまざまな取り組みを行ってまいります。

 平日でも賑わう参道

 ――最後に、これからの太宰府天満宮の在り方について、考えをお聞かせください。

 西高辻 私は、太宰府天満宮を「文化」が生まれる場所にしたいと考えています。「学問の神様」として広く知られる菅原道真公ですが、「文化の神様」としても崇敬の篤い御祭神でございます。

 神社は昔から、人が集い、文化が生まれる場所でありました。当宮では、文化を生み出す取り組みの1つとして、2006(平成18)年からアートプログラムを展開しております。国内外のアーティストにお声がけをして、太宰府や当宮の取材を通して、新たに制作された作品を展示、収蔵しています。ほかにも、アーティストの自主企画で生まれた「くすかき」は、境内に自生する樟の落ち葉掻きに着目したアートプロジェクトで、毎年樟の落葉の季節に、お年寄りから子どもまで誰もが参加可能で、地域コミュニティの形成・維持に繋がっています。このプロジェクトは、10年以上続く季節の風物詩となっています。今後も「アート鑑賞に、太宰府天満宮へ赴く」といったように、新たな文化を創出するきっかけづくりを行っていきたいと考えております。

 また、境内にある太宰府天満宮幼稚園では、和菓子や日本茶を通じて日本文化を学ぶ取り組みを行っています。たとえば、お誕生会にはケーキではなく、四季折々の季節や行事と結び付いた和菓子でお祝いをすることで、子どもたちの感受性を豊かにできるのではないかと考えております。文化は保護するだけではなく、日常生活のなかで触れ、その良さを感じることで、自ずと継承されていくものだと思います。

 昔から受け継いできたもの、これから新しく築いていくもの。それぞれの良さを生かして、多くの方が足を運び、思い出をつくることができる、太宰府天満宮をそんな記憶に残る場所にしていきたいです。変わらないために、変わり続ける――。いつ訪れても、変わらずにそこにあり続ける、そんな「心のふるさと」を目指しています。

初夏の訪れを告げる花菖蒲

(了)
【代 源太朗】

<プロフィール>
西高辻 信宏(にしたかつじ・のぶひろ)

 太宰府天満宮の御祭神・菅原道真公の末裔。1980年、太宰府市に生まれる。東京大学文学部卒。國學院大學で修士号(神道学)ならびに神職資格を取得。太宰府天満宮に奉職後、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員として2年間留学。神職としての祭祀奉仕に加え、積極的に美術展企画やまちづくりに携わる。2019年4月1日付で太宰府天満宮第40代宮司を拝命。

(前)

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