2024年04月17日( 水 )

日韓の熱い夏~韓国に「NO」を突きつけた安倍政権 21世紀のトレンドを決する攻防戦に(後)

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インド太平洋戦略と韓半島の運転手論

 今回の日韓対立は、両国が21世紀に入ってとってきた国際戦略が激突したものとして見る観点も必要だ。方向性の違う国家が、過去の問題の処理をめぐって、対立したのである。

 日本の方向性は「インド太平洋戦略」といわれるものだ。これは麻生政権のころから提示され、最近のトランプ・安倍会談によって明確になった。米国-日本-台湾-東南アジア-豪州-インドを結ぶラインが、この戦略の構成体だ。軍事的脅威を増す中国を意識したものであることは明瞭だ。そして、この国際戦略から韓国が外されていることに、注意する必要性がある。

 一方、文在寅政権の対外政策は「韓半島の運転手論」と言われてきたものだ。周辺国の思惑によって左右されてきた朝鮮半島の平和と安全を、韓国が運転手席に座ることによって自律的に解決していこうとするものだ。民族主義的傾向が強いのはいうまでもない。この場合、朝鮮戦争の当事者でない日本の役割は、自ずから小さくなる。

 この戦略の問題点は、朝鮮半島の平和を阻害してきたのは、周辺国ではなく北朝鮮だという認識に立っていないことだ。北朝鮮に対しては、極めて融和的であり、従北的だとも批判されてきたのである。この点において、韓国の方向性は日本のそれとは明確にベクトルを異にするのだ。

 そういう意味で、「日本にとっての韓国」「韓国にとっての日本」の比重は、過去のどの時期に比べても減退しているのだ。そういった大所高所に立った観点から、今回の事態を眺める必要性がある。安倍政権は北朝鮮との関係を直接交渉によって打開する方向性であり、この問題に関して韓国政府の関与する余地は小さい。

 今回の安倍政権の措置が韓国側にもたらした最大の効用は、日本が韓国にとって依然として重要な位置を占めることを再認識させたことだ。日本への旅行者が急増するなかで、韓国民の対日認識も変化しつつあったが、それは旧来からの反日歴史教育のために閉塞状態にあったというのが真相である。表面的な日本製品不買運動とは裏腹な、このような底流の変化を見逃すべきではない。

 いずれにしろ、今回の文政権の対日対応-安倍政権の経済措置によって始まった「日韓対立」は、両国の本質と時代趨勢を反映したものであり、簡単に解消できるものではない。日本としては、対韓外交で原則的な立場を維持しつつ、インド太平洋戦略における重要地域である台湾、東南アジア、豪州、インドとの関係強化を図る時期にきているのはいうまでもない。

(了)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「日本統治下の朝鮮シネマ群像《戦争と近代の同時代史》」(弦書房、2019) 。

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