2024年04月19日( 金 )

『盛和塾』稲盛塾長、最後の講演(2)

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 盛和塾のなかにはいらっしゃらないと思いますが、フィロソフィを会社の方針に従業員を従わせるための行動規範、あるいは従業員を精力的に働かせるためのツールだと勘違いしている経営者がいます。決してそうではありません。

 もし、そのような経営者個人のため、あるいは会社の業績を良くするためだけの手段としてフィロソフィをとらえて、社内で説いているとするならば、決して従業員の共感を得ることはできませんし、浸透することもありません。

 このことは自明のこととして、皆さま理解しておられると思いますが、そのような自己本位的な気持ちを完全に排除することができていない人も、中にはいらっしゃるのではないでしょうか。

 「従業員のため」「すばらしい人生を送ってほしい」と言っていたとしても、少しでも「会社の業績のため」「自分が楽になりたいから」といった気持ちがあれば、それは知らず知らずのうちに従業員に伝わっていきます。

 「社長は口ではフィロソフィはみんなのためだと言っているが、本当は自分のためなんだ」とすぐに見抜かれてしまいます。

 会社トップである皆さまが心に思っていることは、たとえ口にしなくても、必ず周囲に伝わり、強い影響をおよぼしていきます。

 あくまでも、まずは「従業員にすばらしい人生を送ってほしい」という強い思い、限りない愛がすべての根底になければなりません。

 そのうえで、「こういう考え方をもてば、すばらしい人生を送ることができる」という心からの信念をもって、従業員に真摯に語りかけるということでなければなりません。

 つまり、皆さま自身が自らの人生を通して、フィロソフィがもつ偉大な力を実感することが大切です。

 私自身は、若いときに多くの挫折を味わい、たくさんの苦労を経験しました。旧制中学校の受験には二度も失敗し、肺結核にもかかり、志望大学にも合格しませんでした。そして、就職試験でも希望した会社には入れず、ようやく入った会社は今にも潰れそうな会社でした。

 そのような試練ともいえるような少年時代、青年時代を送ってきたわけですが、先ほど述べたように、フィロソフィの原型となる考え方を基に、一心不乱に目の前の仕事に邁進し、研究に没頭することで、その後の私の人生は大きく開けていきました。

 1959年に徒手空拳で創業した京セラは、初年度から黒字を計上し、その後、発展を続け、今ではファインセラミックスの特性を生かした各種部品、デバイスのみならず、通信機器や情報機器などの完成品までを提供する売上高1兆6,000億円規模の総合メーカーへと成長を遂げています。

 また、1984年に電気通信事業の自由化に際して立ち上げた第二電電も、新電電のなかで最も不利だと言われながらもトップを走り続け、今ではKDDIとして5兆円を超える売上を誇る、日本を代表する通信事業者へと成長しています。

 さらには、2010年からおよそ3年にわたって携わった日本航空の再建も、晩節を汚すのではないかと心配されましたが、2012年には再上場をはたすなど、無事に任をはたすことができました。

 再生を遂げた日本航空は、その後も高収益を維持し続けています。

 それだけではありません。80年を越える人生を生きてくるなかで、私は幾度も自分の想像を超えたすばらしい出来事に遭遇してきました。それは、決して運が良い、つまり時代の潮流に乗ったからとか、ましてや自分の能力によるものではないと私は考えています。

 自分の想像を超えたすばらしい人生を送ることができたのは、フィロソフィの持つ力によるものであると私は確信しています。つまり、より良く生きようとするピュアな考え方はすばらしい運命を招き寄せる強大なパワーをもっているのです。

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