2024年04月19日( 金 )

田舎がアニメに「出る」理由~地方の疲弊とアニメ会社の収益改革

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 7月28日、所用で唐津に行くと、駅の改札のすぐ近くで「ゾンビ」に遭遇した。といっても、本物ではない。アニメ「ゾンビランドサガ」のキャラクターに扮した同作のファン、いわゆるコスプレイヤーだった。

 同作は、アイドルを夢見る少女が事故死して、なぜか10年後にゾンビとなって薄暗い洋館で目覚めるところから始まる。その洋館には彼女のほかにも6人の女性ゾンビが集められ、彼女たちはゾンビであることを隠しながら「アイドル」をすることになる。

 彼女たちのプロデューサーを務める男性は、彼女たちにこう檄を飛ばす。「お前たちがアイドルになって佐賀を救うんじゃい!」

 これまで佐賀と縁遠かった人が同作を機に訪れるようになったのはたしかなようだ。

 話を聞いた「ゾンビ」ファンの男性は30代。「母方が佐賀県生まれ」だったが、「幼い時に連れてこられて以来で、ほとんど初めて」と語った。3日間で嬉野市、伊万里市、唐津市を観光したという彼の腕は、真っ黒に日焼けしていた。

 日本のアニメや漫画は政策での支援が行われる一方で、アニメ制作現場の労働環境、企業の収益構造は長年課題として指摘されてきた。

 収益面では、これまで収益の柱になっていたDVDやBlu-rayなどの記録物販売が、インターネットでの動画配信サービスの拡大で低迷。以前のような収益は見込めなくなった。

 近年は知的財産権――IPの所有者になり、グッズ展開での収益を柱に据えるという方法が拡大している。その先駆的な例が、7月に放火に見舞われた京都アニメーション。同社は小説を原作としたアニメを制作することでキャラクターデザインのIPを取得、自社サイトでグッズ展開を図り、収益を拡大させてきた。

 同社の先駆的な取り組みはほかにもある。現実の光景――それも喫茶店や街並みなど日常的な風景をアニメに投影するという手法だ。この「見たことある」光景を求めてファンが実際にその場所に出向く、という新しいタイプの観光が生まれた。いわゆる「聖地巡礼」だ。

 これが「観光資源」捻出に苦しむ地方にとって魅力的に映ったことは、想像に難くない。アニメ制作会社もイベント開催には積極的で、中には既存の地方イベントに協力する会社もある。

 アニメで生まれたのは新しい層の観光客――と捉えられがちだが、実際は微妙に異なる。唐津は以前にもほかのアニメで描かれ、「聖地」となっている。そのファンのなかには現在も週末になると唐津を訪れ、ファン同士の交流の場をもっている。そこに市内在住かどうかの別はない。

 人が出ていく、人口が減っていくばかりという唐津だが、アニメはこれまでとは異なる「人のつながり」をつくったといえる。その交流を育て、活かすことが「地方の救い」になるのではないか。――唐津で出会ったアニメファンたちの姿を思い返しながら、福岡へと戻った。

【小栁 耕】

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