北九州市が目指すまちづくり 「災害に強い安心・安全な」とは?(前)
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北九州市副市長 今永 博 氏
2018年7月の西日本豪雨により、北九州市も大きな被害を出した。同市は現在、被災現場の復旧を進めながら、新たな災害対策にも取り組んでいる。豪雨被害を教訓に、被災から1年。同市は、どのようなまちづくりを進めているのか。そのハード・ソフト両面の施策をめぐる進捗や課題などについて、北九州市副市長の今永博氏に聞いた。
県の補助を活用し、民有地のがけ崩れ復旧へ
――西日本豪雨災害からの復旧の進捗はどうなっていますか。
今永副市長 2018年7月5日から6日にかけて北九州市を見舞った西日本豪雨では、市内で時間最大70mm、総雨量379mmの雨量を計測し、最大級の警戒が必要となる大雨特別警報が出されました。09年、10年にも豪雨災害が起きていますが、それらを上回る雨量でした。この雨にともなう土砂災害により、門司区の奥田地区で2名の方が亡くなられました。また、住宅損壊やガケ崩れなどの被害は全市的に発生しました。亡くなられた方々に哀悼の意を表すとともに、被災された方々にはお見舞い申し上げます。
市内での被害件数は1,667件に上りました。人的被害は死者2名を始め、重傷者4名、軽傷者1名の計7名の被害者が出ました。住宅被害を見ると、全壊14棟、半壊15棟、一部損壊99棟、床上浸水116棟、床下浸水169棟で、合計413棟となっています。
ガケ崩れは407件発生し、353カ所が民地のガケ崩れで、山などの自然ガケ222カ所、擁壁などの人工ガケが131カ所でした。公有地のガケ崩れは54カ所で、自然ガケ33カ所、人工ガケ21カ所でした。民地の場合は、所有者がガケ崩れ対策を行うのが原則ですが、平成30年7月豪雨による災害が「激甚災害」に指定されたことから、国、県の補助により、北九州市が「災害関連地域防災がけ崩れ対策事業」を行うこととなりました。ガケの高さが5m以上、被害想定家屋が2棟以上などの条件を満たした箇所について、北九州市が民地のガケ崩れ対策を行う事業です。市内25カ所で事業が採択されております。現在、国と工法について協議中であり、今年度末の完了を目指しています。
民地の場合、「壊れた家屋や土砂の撤去の費用負担をどうするのか」という問題もありました。基本的には、公共は民地には手を出せないからです。今回は、環境省の災害廃棄物処理に関する補助制度を活用して市が撤去するほか、宅地所有者が撤去を行った場合も、その費用を補助することにしています。補助対象となるのは91件で、75件について完了または着手しています。
公共施設関係の被害としては、道路の法面崩壊が62カ所、公園の法面崩壊が20カ所、河川の護岸崩壊が42カ所の合計124カ所でした。大量の雨が降ったので、31の河川で溢水(水が溢れる)、285棟の家屋が床上床下浸水しました。道路冠水も発生しました。復旧の状況ですが、124カ所中90カ所で復旧が完了しています。進捗率でいうと、73%になります。残りは今年度中にすべて復旧完了する予定です。溢水した河川については、堆積土砂の浚渫やパラペット(護岸の嵩上げ)設置などの短期対策を実施済みです。道路冠水被害の抜本的な対策は難しいところがありますが、雨水ますの増設や側溝の改良などを行いました。
市内の高速道路も被害を受けました。土砂崩れで九州自動車道は、小倉東ICから門司IC間が通行止めになりました。7月6日に通行止めになって、全線開放されたのは17日でした。北九州都市高速でも、法面崩壊などが発生し、同じく6日に全線通行止めになりました。一部車線規制をともなう全線開放は10日でした。現在、被災した10カ所のうち、6カ所の復旧工事が完了していますが、まだ復旧が完了していない箇所が残っています。
通行止めによって、通常の5倍以上の時間がかかるようになってしまいました。たとえば、小倉駅から関門トンネルまでの移動は通常20分程度ですが、このときは100分ほどかかりました。高速道路、都市高速は北九州市の大動脈なので、これらが止まると、経済的にも大変なことになることを思い知らされました。やはり、リダンダンシー(多重性)の観点から、下関北九州道路は必要だと感じましたね。
北九州市は7月6日、河川や降雨の状況に基づき、19万6,755人(9万7,605世帯)を対象に避難指示を出しましたが、実際に避難所に避難した市民は全体の1.7%の3,415人(1,736世帯)に過ぎませんでした。
市民の「我がこと感」醸成が課題
――豪雨災害の教訓を、どう整理していますか。
今永副市長 まずソフト面では、避難指示を出しても、ほとんど市民の方々が避難しなかったことが課題として浮かび上がりました。そこで、「災害時の避難に関する検討会」を設置し、有識者などからさまざまな意見をうかがいました。そのなかで、市民の「我がこと感」を醸成する必要がある、市の避難指示では「危ない」ということが伝わらないので、表現を工夫する必要があるなどの意見が出されました。
市ではこれまで、レッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)にお住まいの方々を対象に避難情報を出していましたが、今回亡くなった2名はイエローゾーン(土砂災害警戒区域)にお住まいの方々でした。
レッドゾーンとイエローゾーンにお住まいの方々にアンケートを行ったのですが、災害発生時に避難しなかった方が87%に上りました。自宅が土砂災害警戒区域にあるかどうかは、64%の方がご存知だったのですが、それでも避難しなかったわけです。
ハード面については、09年、10年の水害では、二級河川の紫川の被害が多かったのですが、今回は、市が管理する比較的規模の小さな準用、普通河川で多くの被害が出ました。これまであまり目を向けていなかったところで、被害が出たということです。市民の早期避難のための情報収集や情報発信の強化、スピード感のある整備が必要だと思っています。
(つづく)
【大石 恭正】<プロフィール>
大石 恭正(おおいし・やすまさ)
立教大学法学部を卒業後、業界紙記者などを経て、フリーランス・ライターとして活動中。1974年高知県生まれ。
Email:duabmira54@gmail.com関連記事
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