2024年04月25日( 木 )

天王洲水辺のまちづくり アートを感じる街並みの歴史(後)

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対岸から撮影した天王洲

品川区などが景観ルール策定

 天王洲地区は、再開発時に定められた地区計画や東京都屋外広告物条例に加え、「水辺景観形成特別地区」に指定されており、運河に囲まれた水辺景観形成特別地区の屋外広告物ルールが適用されている。また、天王洲地区の開発にあたって天王洲総合開発協議会が定めた自主的ルールも同じく適用されている。

 自主的ルールは「アートになる島 ハートのある街」に基づき、施設計画や空間デザインを「業務施設を中心とした開発でありながら、本来、まちの持つべき人間的暖かさ、文化を復興し、ほかにはない独自の風景を演出し、21世紀の都市住民に対するメッセージとしてのまちづくりを行う」というものである。

 品川区は18年3月、天王洲地区の居住者と本店・支店を置く事業者を対象に、街並み景観についてのアンケート調査を実施した。「天王洲の街で良好な景観を守り育てていくために、この街に合った景観ルールが必要だと思われますか」という問いに対して、居住者の84.3%、事業者の93.3%が「必要」と回答。

 この結果を踏まえ、「天王洲地区景観まちづくりルール」を検討するため、品川区は地元4団体・天王洲会(町内会)、天王洲総合開発協議会、天王洲・キャナルサイド活性化協会、品川浦・天王洲地区運河ルネッサンス推進協議会、そして居住者からなる「天王洲地区景観まちづくり研究会」を18年8月に設立した。研究会では、東京都や品川区の景観計画に加えて、天王洲ならではの独自ルールを模索し、行政にも提言する。

 景観形成の目標案としては、「まち全体がミュージアムのような天王洲ISLE」とし、景観形成の基本的な考え方としては「水辺景観形成特別地区」で定めている方針に加えて、天王洲地区の景観特性を踏まえた独自の方針を定めるという。水辺を生かした景観形成やファサード表現の工夫など、細かい点にまで踏み込んだものとなっている。

 このほか、水辺景観形成特別地区での建築物の新築・増築・改築・移転や、外観を変更する修繕・模様替え、色彩の変更での届け出対象規模は、通常「高さ15m以上、または延床面積2,000m2以上」だが、天王洲地区はすべての建築物が対象になる。

 また、品川区景観計画では、「地区固有の資源や個性を生かし、きめ細やかな景観形成を図る地区」を重点地区と位置付け、独自の景観ルールを設定。すでに指定されている3地区に加え、今回、天王洲地区も重点地区に指定することも検討し、今秋にも品川区が新たな景観ルールを策定する予定となっている。その運営のため、品川区では「(仮称)天王洲地区デザイン会議」の創設を検討。地元団体と学識経験者が話し合い、案件ごとに意見を調整する場となる予定だ。天王洲に建物計画が立案された際、「天王洲はこのような街だから、こういう景観にしてほしい」という意見を提起することができるという。

ふれあい橋対岸から撮影
ふれあい橋対岸から撮影

新たな飛躍に向けた展開、羽田空港アクセス線新駅

 東京モノレールとりんかい線に加え、羽田空港と東京都心を結ぶ新路線「羽田空港アクセス線(仮称)」について、JR東日本が環境影響評価手続きに着手したと発表した。地元では「羽田空港アクセス線(仮称)の新駅の1つが天王洲アイル駅近くに設置されるのではないか」とも囁かれている。

 また、沖合に埋め立てる廃棄物の集積所だった「東品川2丁目清掃所跡地」の再開発が検討されている。20年前の協定で、東京都から品川区に条件付き無償移管されたものだが、この協定が20年3月に期限を迎えるのだ。京浜運河、東京モノレール南口に隣接する絶好の位置にあり、品川区は東品川2丁目清掃作業所跡地で再開発を検討しているとも言われている。

 天王洲地区にとって大規模な再開発になることから、地元団体が共同で品川区へ要望書を提出した。要望の内容は多岐にわたっており、充実した鉄道網やバスターミナルの新設を始め、街の美観整備、まちづくりのコンセプトに沿った周辺と調和した施設のデザインや水族館などの集客施設、京浜運河に設置された桟橋を用いた舟運の活性化なども含まれている。

 天王洲アイルマスタープランの作成をリードした岡田新一設計事務所の故・岡田新一前社長および柳瀬現社長は、「天王洲アイルは京都の大徳寺に似ている」と指摘した。大徳寺の境内には個別の“坊”である塔頭(たっちゅう)があるが、個々の塔頭が洗練された美しい建物と庭をもち、それを常に手入れや清掃・メンテナンスすることにより、大徳寺全体も美的で緊張感のある清らかな空間が形成されるという。

 天王洲アイルでも同じように地権者の人々が自社のビル周辺を素敵なデザインとし、行き届いた弛まぬメンテナンスを行うことで、清潔さや美観を保つことができるという意味である。大徳寺の魅力は、「良質なデザインとメンテナンスの良さ」が支えているとされ、天王洲アイルにおいても、大徳寺の精神を共有化していこうと呼びかけている。

 「しながわ百景」にも加わった天王洲エリアは、運河沿いの街並みやボードウォーク、多種多様な広場、天王洲ふれあい橋など、魅力ある景観にあふれている。水辺とアートを感じ、楽しめる天王洲の発展に期待したい。

Bondstreet
Bondstreet
天王洲ピア
天王洲ピア

(了)
【長井 雄一朗】

(前)

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