「国土」「社会」「人間」の健康を柱に 経済指標だけでは計れない豊かさの町へ
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久山町長 久芳 菊司 氏
新国富指標による持続可能なまちづくり
――現在進めているまちづくりの方向性について、お聞かせください。
久芳町長 現在、福岡大都市圏は九州のなかでも唯一といっていいほど元気があり、近隣のほとんどの自治体で人口が増えています。そうしたなかで久山町は、やみくもに人口を増やして都市化を目指すのではなく、里山の自然など、元来もっている資源を生かしたまちづくりを進めようとしています。
本町では、「国土の健康」「社会の健康」「人間の健康」の3つをまちづくりの柱としています。人は健康でなければ幸福にはなれませんし、人が健康になるためには、住んでいる環境や地域コミュニティも健康でないといけません。住む人の健康を守るための政策の1つとして、本町では1961年から半世紀以上にわたって、九州大学との共同事業により、40歳以上を対象とした生活習慣病予防健診を毎年実施しています。これにより、町ぐるみで健康管理を行うとともに、その健診データを九大側が生活習慣病の発症原因を追求する疫学研究などに充てることで役立てています。
国土の健康のためには、むやみやたらと開発するのではなく、計画的な土地利用により、自然環境をできるだけ壊さずにまちづくりを進めていくことも必要です。本町では町域の約97%を市街化調整区域としており、町主導で開発を抑制し、自然を多く残すまちづくりを進めています。
九州大学の研究チームが2018年に、福岡県の各自治体を対象に「新国富指標」の調査を実施しました。「新国富指標」とはGDP(国内総生産)だけでは把握できない豊かさを測定するもので、教育や健康などの人的資本や自然環境がもたらす豊かさなども勘案したうえで、地域の資産を数値として表すものです。このときの調査では、県内では久山町が1人あたりの将来にわたる豊かさがトップになりました。
つまり、いろいろな持続性のある地域社会をつくる資源が、久山町にはまだたくさんあることが示されたことになります。そういう学術的な評価をいただいたということは、自分たちのまちづくりの方向性が間違っていなかったという、自信になりました。
――昨年12月には、九州大学や九州電力と「持続可能なまちづくりに関する包括的協定」を結ばれました。
久芳町長 今回の協定では、久山町がフィールドの提供および実証の支援、九電がグループの経営資源を生かした新たなサービスの実施、そして九大が新国富指標による持続可能性の定量評価を行うというような役割分担で進めていきます。
たとえば、IoT(モノのインターネット)を活用した子どもたちの見守りなどの安全・安心のサービスのほか、空き家を改装した地域交流型シェアオフィス「そらや」を拠点にした定住および交流促進の事業、九電のマッチングサービス「おけいこタウン」を活用した健康教室などの開催など、いくつかのサービスを町内で実施・モニタリングしながら、3者で連携して進めていきます。協定期間は3年間ですが、その間にいろいろな実証実験などを行っていければと思っています。
自然と都市が共存する魅力あふれる町へ
――町内に本社を置く久原本家グループ本社と連携して、久山町グローバル人材育成事業「みらいパスポート」の取り組みを行われています。
久芳町長 町では以前から、半年以上の語学留学をする高校生・大学生の子どもたちに対する支援を行っていましたが、久原本家の河邉哲司社長も「久山町の人材を育てたい」という思いがあり、では「一緒にやりましょう」ということで、18年4月に協定を結びました。町と久原さんとで30万円ずつ支援を行い、今ではもう7~8人が語学留学しています。
ほかに県の事業とは別に、町と久原さんとでALT(外国語指導助手)を3人招聘し、幼稚園と小学校、中学校にそれぞれ1人ずつ派遣しています。子どもたちには“英語のシャワー”を浴びるようなかたちで、楽しんで英語に慣れ親しんでもらい、実際に英語の成績が上がるなど、効果は出ています。
――「久山温泉 ホテル夢家」を(株)ティーケーピー(以下、TKP)が取得して、6月から「TKPレクトーレ博多 久山温泉」として運営を開始しておりますが、こちらについてはいかがですか。
久芳町長 あそこはもともと「レイクサイドホテル久山」というホテルで、すぐ隣の「ヘルスC&Cセンター」という町の健康づくりの施設と一体となって、滞在型健康リゾート施設として誕生したものです。今回、TKPさんの宿泊研修ブランド「レクトーレ」としては九州初であり、宿泊と会議とを組み合わせたハイブリッドな施設になると聞いています。TKPさんがお持ちのノウハウを生かしたサービス展開などを、大いに期待しているところです。
――町外の人にとって久山町といえば、「トリアス」を挙げる方も多いと思います。
久芳町長 町にとっても、やはりトリアスの存在は大きいです。トリアス開業前は、住民アンケートなどで「買い物の不便さ」への声も挙がっていましたが、トリアスができてからは、買い物だけでなく映画館などのアミューズメント施設も含めて、町民の満足度向上に大きく寄与してくれており、非常にありがたい施設ですね。とくに、「コストコ」の日本1号店が、トリアスにできたのは大きいです。
やはり久山町は、先ほどお話ししましたように都市化を抑制して自然を多く残してきましたが、一方でトリアスができたことによる商業施設の充実に加えて、上下水道や光ケーブルなどの都市的なインフラはすべて整備されています。こうした面が、豊かな自然環境を保持しつつ都市的な利便性も享受できる、町としての大きなメリットにもなっていると思います。
――最後に、久山町の将来に対しての“夢”をお聞かせください。
久芳町長 自治体には、それぞれの役割があると思っています。たとえば福岡市は都心ですが、我々がそういうものを真似して小さな都市をつくる必要はありません。最初にお話ししたように、これまで町の基本構想の基本理念として、「国土」「社会」「人間」の3つの健康をずっと掲げてきました。この理念をずっと守り続けながら、田舎の景観を残しつつも都市的な文化も享受できる、ますます魅力あふれる久山町にしていきたいと思っています。
【坂田 憲治】
<プロフィール>
久芳 菊司(くば・きくし)
1949年4月、久山町出身。73年、西南学院大学法学部を卒業後、久山町役場に入庁。田園都市整備課長、事業統括課長、総務課長、政策推進課長などを経て、2008年10月に久山町長に初当選。現在、3期目。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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