2024年04月19日( 金 )

福岡市の社会福祉法人で職員自殺 置き去りにされた遺族(後)

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 福岡市の指定管理者である「(福)福岡市身体障害者福祉協会」(以下、協会)に勤務していた50代の女性職員(Aさん)が今年5月、自殺していたことがわかった。関係者への取材から、自殺の原因として上司からのパワハラが疑われる証言や証拠が見つかっている。

 さらに職員間の関係悪化に気づきながらも、それを見過ごしてきた組織の体質も自殺の背景にあるとみられる。問題視されるのはAさんの自殺を隠蔽するかのような法人のあり得ない対応。これまで遺族は法人から一連の経緯に関する説明を受けていないことがわかっている。職員1人の死に向き合えない組織に、命と深く関わる福祉サービスを提供する資格はあるのか。

時系列でまとめた事柄
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取材で訪問するも、ほとんど質問に答えず

 取材対応にしても、隠蔽体質が露呈する。記者が関係者への取材で収集した内容を1つ1つ確認すべく20項目以上の質問を提示した。

 主な内容は以下の通り。

●法人ではAさんが死を選んだ理由をどのように考えているか。
●Aさんからパワハラに関する相談はあったのか
●法人として、Bさんに事情を聞いたのか。
●Aさんが休職して以降、協会からのフォローはあったのか。
●職員に対し、事情聴取やヒアリングなどを実施したのか
●協会として、遺族に十分な説明を行ったと認識しているのか。
●Aさんの自殺に関し、「協会には責任はない」と考えているのか。
●Aさんについて、「聞くな。話すな。噂するな」との指示が出ていたと聞くが、隠蔽したのか。
●労務対策を講じていれば、失われなくて済んだ命だったのではないか。

 驚いたことに取材では、「Aさんが勤務していたのか」ということさえ答えてもらえなかった。無論、それ以上の質問に答えることはなかった。その後、返ってきた回答書には、記者の質問に対する回答は皆無だった。記載されていたのは、「言い訳」ばかりだ。

協会の回答書の一部
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協会の回答書の一部
協会の回答書の一部(下線は編集部によるもの)
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 まず、遺族に何も説明していないことについて、「遺族に説明できていないのは、遺族に説明を求められていないため」とあるが、求められなくても説明する責任があるのは当然だ。さらに調査結果の整理に時間がかかったと弁解しているが、どのような調査がいつ行われたのかさえ示されていない。Aさんの死からまもなく4カ月が経とうとしており、調査する十分な時間はあったはずだ。遺族から説明を聞きたいという申し出がなければ、このまま終わらせようとしていたと思われても仕方のない状況である。

 また「Aさんが自殺した理由を調査することが不可能だった」と答えているが、社内調査のみに終始し、遺族への聞き取りを実施しておらず、「できなかった」ではなく、「しなかった」というのが事実である。いうまでもなく協会はAさんの残した遺書、メモの存在すら把握していない。遺族に聞き取りさえしていないのだから、当然だ。Aさんの残したメッセージと対峙せず、目を背けたからである。

 最後に、データ・マックスの取材に対し、「十分な調査と分析のもと、公正中立な立場から報道していただきたい」と締めくくっている。これもおかしい。取材に対し、協会としてほとんどの回答を拒否しておきながら、公正中立な報道を求めている。そう主張するならば、現実から逃げずに1人の死と向き合い、内部調査した内容を正々堂々と述べるべきである。

 「組織に殺された。協会がなにも変わらなければ、Aさんの死は無駄になる」―――Aさんを知る多くの関係者は組織の変革を望んでいる。まずは遺族とAさんの残したメッセージから目をそらさないことだ。1人の命が失われたことに真剣に向き合っているのなら、一連のお粗末な対応になるわけがない。遺族が求めているのは、Aさんの死への納得である。近日、遺族と協会が面会することになるが、協会はすべてを包み隠さず遺族に知らせてほしい。それが組織を立て直す第一歩となる。

(了)
【東城 洋平】

【福岡市の社会福祉法人で職員自殺 置き去りにされた遺族】の記事一覧

福岡市の社会福祉法人で職員自殺 置き去りにされた遺族(前)(2019年09月19日)
福岡市の社会福祉法人で職員自殺 置き去りにされた遺族(中)(2019年09月19日)
・福岡市の社会福祉法人で職員自殺 置き去りにされた遺族(後)(2019年09月20日)

(中)

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