【サンリヤンシリーズマンション】マンション販売会社の耐震偽装隠ぺいから国民を守る!

現在係争中である東京豊洲市場(水産仲卸売場棟)の構造計算偽装と同様の法令違反の疑いが福岡のマンションにおいても存在する可能性があり、この点について分譲主である西日本鉄道(株)(以下「西鉄」)に対して、弊社特別取材班が質問書を送付したところ、9月19日付けの回答が送付されてきた。まずは、西鉄が回答期限の9月20日までに、回答を示されたことに対し、心より感謝申し上げる。
西鉄への質問は、西鉄が分譲したサンリヤンガーデン春日Ⅴ番館の構造計算の不正に関する質問である。
鉄骨鉄筋コンクリート造(以下「SRC造」)の建物の構造計算において、必要保有水平耐力を求めるために用いる重要な係数の1つである構造特性係数(Ds値)は、建築基準法施行令第82条の3および建設省告示「昭55建告1792号」に定められており、この規定に適合しない建物は法令違反となる。
SRC造であるサンリヤンガーデン春日Ⅴ番館の保有水平耐力計算においては、重要な係数であるDs値が 上記の法令規準に適合しない不正な構造計算となっていることが判明したので、マンションを販売した分譲会社としての見解を聞くために下記の項目に関して質問状を送付したものである。
【質問1】構造特性係数Ds値の不正について
【質問2】基準値を下回る数値と棄損価値の回復方法について
【質問3】偽装をかかえた状態で交付された確認済証と責任
【質問4】構造上の欠陥についての是正責務
【質問5】融資を行った金融機関との間に生じる問題
【質問6】外壁に必要な「構造スリット」が設けられていないこと
今回の質問に関連し、構造設計一級建築士の仲盛昭二氏は、弊社社長 児玉 直宛てに提言書を送付されている。
提言書の要旨
「違法建築物を適法に戻せ!(故意に隠ぺいされた違法建築物を糾弾する)」
1.西鉄サンリヤンマンションにおける不適切な設計
2.耐震問題における「安全性」と「法令規準違反」の優先度
3.東京都豊洲市場における日建設計による設計偽装
4.全国に存在する違法建築物
5.西鉄には質問書に対して誠実な回答を求める
今回の質問に関連した仲盛昭二氏の提言は以下のとおりである。
西鉄による回答の内容は、論点のすり替えにすぎないものである。今回の質問書は、「安全か否か」の議論ではなく、法律違反を問うているのであるから、西鉄は、質問に対して、「構造計算書のこの部分が法令規準に適合している根拠です」と示せばすむだけの話である。構造の再計算や複雑な検証を求めているのではなく、特別高度な知識や技術力を要するものでもない。
仲盛昭二氏によれば、上記の規定のように、有効な鉄骨が存在しない方向をRC造として構造計算を行うことは、構造技術者にとって常識中の常識とのこと。
西鉄からの回答においては、「JSCA(日本建築構造技術者協会)の検証を踏まえ、構造耐力に関する安全性と建築基準法に適合していると福岡県から通知を受けている」ことを理由に、法令規準違反がなく安全と主張しているが、今回の質問書において指摘した事項に関する具体的な回答は一切記載されていない。
福岡県などの行政においても、SRC造の保有水平耐力計算におけるDs値について正確な審査がなされていたとは限らない。現に、東京都豊洲市場で裁判に発展している問題はまさしく保有水平耐力計算におけるDs値の不正である。
豊洲市場において日建設計が行った不正な構造計算を東京都の計画通知審査では見逃していたし、ダブルチェックの機能をはたすべき構造計算適合性判定機関も不正を見逃していた。そして、当時のJSCA会長も日建設計を擁護するコメントを残している。つまり、西鉄の主張の根拠となっている「行政」や「JSCA」の検証結果などは、Ds値が適切か否かを確認していない不完全なものなのである。
この点について、仲盛氏は以下のように語っている。
「このマンションが設計された当時、建築確認の審査において、Ds値のことについて指摘をする行政は少なかったと記憶していますがゼロではありません。行政から指摘されないということで不正な設計のまま建築確認済証が交付されていたのも事実です。私の会社で過去に設計を行った物件においても同様の事例があるかもしれませんが、是は是、非は非として、不正な設計を是正する活動を続けています。西鉄は、逃げの回答を止めて、根拠を以って堂々と反論すれば良いと思います。仮に、私の会社が設計に関わった西鉄のマンションで同様の事例があれば、区分所有者や管理組合が西鉄や私を訴えれば良いと思います。私も技術者として是は是、非は非として対応するつもりです」
西鉄のマンション分譲は167棟8364戸(平成31年4月1日現在)におよぶ。弊社が質問状において指摘した建築構造上の問題を西鉄は理解し、事の重大さに気付いたはずである。事が重大であると認識したがゆえに、分譲済みマンションの区分所有者への影響、今後のマンションブランドイメージへの悪影響を考え、このように論点をずらした回答をしたものと推察される。
建築確認の審査においては、建築基準法以外の関連法規・建設省および国土交通省告示ならびに通達・日本建築学会などが定めた規準・指針・各都道府県の構造計算適合性判定機関の判定事例などが審査の目安とされている。建築基準法をご覧になれば一目瞭然であるが、基準法には大まかな総論しか規定されていない。各論については建築基準法施行令や施行細則、告示・通達・条例、各種規準・指針などにより、具体的に規定されており、これらの法令規準に従い、設計が行われ、建築確認審査が行われている。この点に関して、仲盛氏は以下のように述べている。
建築基準法は「建築物の敷地・構造・設備および用途に関する最低の基準」を定めた法律であり、建物を設計する際の大まかな方向性を示した規定が多く、具体的な基準や数値などは同法施行令によって補完されています。さらにそれらを補うものとして、告示や規準・指針および地域による条例があり、建築設計は、それらの制約のなかで行われるものであり、建築確認審査においては それらへの適合性が厳格にチェックされます。
たとえば、建築基準法第20条では、建築物が適合すべき構造耐力の基準を定めていますが 具体的な数字は示しておらず、「政令で定める技術的基準に適合すること」という表現にとどまっています。そこで、基準法法20条1項2号イに基づいて政令で定める「構造方法に関する技術的基準」である令36条2項1号は次の通り定めています。
法第20条第1項第2号イの政令で定める技術的基準(建築設備に係る技術的基準を除く。)は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める構造方法を用いることとする。
一 第81条第2項第1号イに掲げる構造計算によって安全性をたしかめる場合
この節から第四節の二まで、第五節(第67条第1項〔同項各号に掲げる措置に係る部分を除く。〕および第68条第4項〔これらの規定を第79条の4において準用する場合を含む。〕を除く。)、第六節(第73条、第77条第2号から第6号まで、第77条の2第2項、第78条〔プレキャスト鉄筋コンクリートで造られたはりで2以上の部材を組み合わせるものの、接合部に適用される場合に限る。〕および第78条の2第1項第3号〔これらの規定を第79条の4において準用する場合を含む。〕を除く。)、第六節の二、第80条および第七節の二(第80条の2〔国土交通大臣が定めた安全上必要な技術的基準のうちその指定する基準に係る部分に限る。〕を除く。)の規定に適合する構造方法。
そして、上記で指摘されている法令において、適合させるべき具体的基準については、それぞれ「国土交通大臣が定める方法」(令77条4号)などと規定されています。
また、法20条1項2号イに基づいて政令で定める「構造計算に関する技術的基準」である令81条2項は次の通り定めています。
2 法第20条第1項第2号イの政令で定める基準は、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める構造計算によるものであることとする。
一 高さが31mを超える建築物
次のイ又はロのいずれかに該当する構造計算
イ 保有水平耐力計算又はこれと同等以上に安全性を確かめることができるものとして国土交通大臣が定める基準に従った構造計算
ロ 限界耐力計算又はこれと同等以上に安全性を確かめることができるものとして国土交通大臣が定める基準に従った構造計算
二 高さが31m以下の建築物次のイ又はロのいずれかに該当する構造計算
イ 許容応力度など計算又はこれと同等以上に安全性を確かめることができるものとして国土交通大臣が定める基準に従った構造計算
ロ 前号に定める構造計算
この点についても、「国土交通大臣が定める基準」が、建築物の設計に際して実際に適用される基準とされています。
以上からも明らかなように、建築物の構造方法や構造計算に関する技術的基準は、建築基準法と同法施行令だけでは完結しておらず、「国土交通大臣が定める基準」等を示す告示や指針などまで踏まえる必要があります。
さらに、それらの「基準」があっても、その意味を具体的に明らかにした「解説書」の記載をふまえなければ、実際に建築基準法令に適合した建築物を設計し建築することはできません。「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書」は、建築基準法施行令第3章「構造強度」の各規定及び関連するその他の規定について、それぞれの基準の解説を行ったものであり、独立行政法人建築研究所、社団法人日本建築構造技術者協会等の研究者を中心に編集され、国土交通省住宅局建築指導課及び国土交通省国土技術政策総合研究所の職員らが多数協力の上作成されています。
建築物の計画が建築基準法令に適合しているか否かを審査する建築確認に際しては、建築基準法や同法施行令はもとより、これらの法令に基づいて基準を定めた国土交通大臣の告示や規準・指針への適合性が審査されることは当然であるだけでなく、それらの基準の「趣旨や要求性能」などを具体的に示した「解説書」の記載を基準とすることが不可欠であり、完成した建築物が建築基準法令に適合しているか否かを判断するにあたっても同様であるというのが、建築確認における基本的な考え方です。
豊洲市場の問題に限っては、東京都は自らの審査ミスを隠すために、「建築確認審査においては建築基準法以外の法令規準は審査の対象としない」と暴言を放っています。これは我が国の建築確認制度および建築に携わるすべての技術者を冒涜する発言だと思います。最優先すべきは、建物の所有者や居住者・利用者の安全確保や資産価値の保護であり、役人の体面や建築主の利益ではありません。
サンリヤンガーデン春日Ⅴ番館の14階の部屋は、かなり前から売りに出されていたが、弊社が西鉄からの回答を受け取った直後に、各売買サイトにおいて、この物件は「掲載終了」となった。弊社の取材によれば、この物件は14階~15階にかけてのメゾネットタイプであり、4,000万円近い物件ゆえに買い手が付かず、数百万円単位の値引きも提示されていたらしい。そのような売れ難い物件が売約となったことを疑問に感じざるを得ない。
いずれにせよ、サンリヤンガーデン春日Ⅴ番館の法令違反問題に関しては、西鉄の考え方次第によっては、法廷での決着もあり得る。
金融機関との間に生じる問題について、西鉄は「違法状態でないから問題は生じない」と回答している。裏を返せば、違法状態であればQ金融機関との間で問題が生じるということであり、期限の利益を失った区分所有者に対して金融機関が住宅ローンの一括返済を迫る事態も考えられる。
質問6の構造スリットの未施工について、西鉄は、「構造スリットの未施工があれば真摯に対応する」と回答している。この点について仲盛昭二氏は下記のように語っている。
構造スリットの未施工については、残念ながら、図面通りに施工されていないケースが非常に多いという現実があり、国土交通省も本格的な調査に乗り出しており、今後全国的な問題に発展すると思われます。西鉄の回答では「真摯に対応する」ということですが、現実問題としては如何なものでしょうか?構造スリットは、防水の観点から室内側に設けられることが一般的です。
すなわち、分譲後に構造スリットを設ける場合には、共用部分ではなく専有部分である区分所有者の部屋の壁に新設しなければなりません。当然のことながら、廊下側の各部屋とバルコニー側のリビングなどの各部屋の壁に施工をするので、居住者は数週間~数カ月の間一時的に退去(仮住まい)せざるを得ず、この費用も西鉄の負担となります。
西鉄が、そこまで考えて、今回の回答を行っているのであれば、「さすが福岡ナンバーワンの企業」と賛辞を送りますが、そこまで真剣に考えず、場当たり的な回答だとすれば、区分所有者を馬鹿にしたコメントと断じざるを得ません。
私個人としては、もし、サンリヤンマンションの区分所有者の方から依頼があれば、構造スリットを含めて構造に関する調査に全面的に協力をする用意はあります。
弊社特別取材班では、今後、サンリヤンガーデン春日の区分所有者や設計事務所にも取材を行うなど、西鉄のマンションの法令規準違反の問題を掘り下げていく予定である。
【特別取材版】