2024年03月29日( 金 )

千葉のゴルフ練習場、鉄塔倒壊について

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建築構造調査機構 代表理事・仲盛昭二(構造設計一級建築士)

 私は過去、ゴルフ練習場の鉄塔設計を数多く手がけた経験があります。その時、設計する際に留意すべき基本的事項があります。

 鉄塔設計における風荷重(台風時)に関することを列記してみます。これは暴風時に ネットの上部を3分の2程度下ろすことを一応の目安として設計します。

 今回は、テレビ映像で見る限り、ネットが適切に下ろされていない状態だったと推察されます。

(1)普通は、風速25m/秒以上で、ネットを下ろさないままでの条件では構造的に成り立ちません。

 ※ちなみに報道されている風速40m/秒という数値自体は、あまり意味のない数値と考えます。

(2)仮にネットを下ろさないままの条件での設計であれば、鉄塔および基礎部分が過大になり、不経済極まりない設計となります。

 一般的なゴルフ練習場では、風速計と上部ネット操作装置(巻き上げウインチ)が連動しており、風速がある程度に達すれば、自動的にネットを降下させるようにできています。

 もし、装置に不具合が確認されれば人力でおろさなければなりませんが、不可能ではありません。最悪の場合、ネットワイヤーを切断することもあります。台風は予測できるのですから…。

 また推測ではありますが、現実的にはネットを二重にすることもありました。その時は当然、風の受圧面積が倍になるので、風荷重も2倍で設計します。もし、そのような設計になっていなかったのであれば、倒壊する危険性があるのは容易に考えられます。

(3)テレビの報道による解説では、最大瞬間風速が58m/秒と想定外の風荷重であったことが強調されていました。それゆえに想定外だったことを理由として、法的にはゴルフ練習場側の責任は負わなくて良いとのゴルフ練習場側・弁護士の不見識な説明がありました。

【本当に被害に遭われた住民を愚弄しています】

 ※そんなゴルフ練習場側の言い訳などは、技術的に素人論法です。

 今回の問題となった鉄塔は、ネットを下ろしていなかったため、現実的には風速25〜30m/秒でも倒壊するレベルの状態です。

 ちなみに風速(25mと58m)の風荷重の違いは、実際に2〜3倍もの開きがあります。

(4)すぐに鉄塔解体に入る前に、このあたりを証拠として写真撮影しておくべきだと思われます。当然、鉄塔根元の腐食具合も調べておく必要があります。

 裁判になれば、1点突破でこの辺の問題点を追及されたらいかがでしょうか?

※あくまで、法的・技術的数値の根拠提出で交渉されることをお勧めします。

【技術的各論】について

 鉄柱単体(ネットが張られていない)では、風速60m/秒で設計します。

 施主の要望として、ネット降下時に風速70m/秒での設計までは時々ありました。ネットを張ったままの状態では、25m/秒まで耐える強度で設計していました。鉄柱単体を70m/秒で改めて設計するわけではなく、ネット装着時に25m/秒で耐える鉄柱は、結果的にネットを下ろした状態で、風速70m/秒くらいまで耐えことができるのです。

 鉄塔単体での耐風荷重として60m/秒と記載するか、70m/秒と記載するかどうかの違いだけです。

 これは当時も今も全国一律の設計指針であったと思います。当時、大手企業が設計した鉄柱の設計条件を見る機会も多々ありましたが、基本的にこの基準で設計されていました。

 現在は一部、別の計算方法によっているようですが、基本的な部分は変わりません。

 強風に対してネットを下ろす数値基準はとくにはありません。鉄柱の持つ強度により、風速15mで最頂部より10m下ろしたり、風速20mで最頂部より20m下ろしたりする設定(任意)で設計をします。

 施主の要望でネットを一部において二重に張ることもありました。ネットが物理的に重なる部分はありますが、ネット自体は鉄塔から離れて張り、最頂部より吊っている状態です。それゆえに鉄塔上部のみに鉄塔を引き倒すような風荷重が作用します。

【総括】

 ゴルフ練習場の運営会社は今回、台風が近づく前に天井部のネットは下ろしたものの、側面のネットは固定式のために下ろすことができなかったと説明しています。また、《国土交通省と市原市》が現地調査を行ったところ、鉄柱とコンクリートの基礎部分を固定するボルトが複数カ所破断していることも確認されています。

 報道が事実であるとすれば、側面のネットが固定式で、強風が予測される状況でも下ろせない状態だったという点に、《保存上の瑕疵》があったと考えます。

 鉄柱とコンクリートの基礎部分の固定に老朽化(サビ)による強度不足等の問題。定期的な点検を行っていたか。などが今後、議論になるように思います。

※想定外の(風速による風荷重)などの責任転嫁などは、それ以前の問題でまったくもって論外です!

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