飛躍する兎月つかさ～多様性がもたらす企業価値

兎月つかさ：人目を惹くカッコかわいい出で立ち

引きこもりだった彼女は

　mecに入社する2019年5月以前の彼女は、引きこもりだった。「ボクは引きこもりで、性格も控え目な方でしたので、正直暗い生活を送っていました」（兎月つかさ）。

　外の世界へ踏み出す勇気をもてずにいた彼女だったが、転機は思いがけずやってきた。彼女のことを気にかけてくれていた存在がいたのだ。「（株）悪の秘密結社のメイド執事さんの紹介でつかさと出会い、そのまま当社に入社してもらうことになりました」（宮崎なつ樹）。

　引きこもりだった彼女は、こうして社会への一歩を踏み出した。背中を押してくれた悪の秘密結社と、人材として彼女を受け入れたmec。そして、彼女の「変わりたい」という強い意志が重なり合い、「兎月つかさ脱ひきこもり計画」は始動したのだ。

　「外に出てみると、皆さま温かくて、何であんなにビクビクしていたんだろうって。知らない方でも名刺を渡せば受け取って『がんばってね』と声をかけてくれます。まだ怖いと感じることもあります。けど、それ以上に新しい世界に進んでいこうと、がんばっていこうという気持ちがあります」（兎月つかさ）。

　彼女は先輩社員の宮崎さんに付いて、清掃や事務作業をこなす。最近は受付業務も始め、社外の人と接する時間も増えているという。歩みの速度はゆっくりだが、着実に成長を見せる彼女。ダイバーシティによる就業機会の拡大が叫ばれるようになって久しいが、実践できている企業は多くない。mecと兎月つかさの関係性は、数少ない成功例といえるだろう。

広告塔としても活躍

　人目を惹きつけるルックス、引きこもりからの社会進出という物語性も相まって、兎月つかさはメディアからも取り上げられるほど注目の的となった。しかし、兎月つかさ最大の強みは、SNSやYouTubeを活用してユーザーと成長を共有する「共創マーケティング」力にこそあると考える。

　5月の入社と同時期にスタートしたTwitterでは、フォロワー数に応じてカフェやコスプレショップとコラボ。対象店舗の宣伝活動など、さまざまな挑戦を行った。6月にはYouTubeに「踊ってみた動画」を投稿。1万再生突破でYouTubeチャンネルの開設、および、動画配信による視聴者との交流開始を宣言。すると動画は見事1万再生を超えた。9月15日からは初のオリジナル楽曲「マジカルセカイ」の配信も始まっている。

　入社から僅か4カ月。普段姿は見えないが、彼女の成長を後押ししてくれているネットユーザーの応援もあり、彼女の脱ひきこもり計画は加速度的に進んでいる。10月14日にはついにデビューLIVEが開催される。「人よりもできることが少ないので、頑張らないといけないことも多いです。仕事でもLIVEでも、自分でできることを増やしていって、昨日の自分より良い自分になっていきたいと思います。できる限りのことを、がんばっていきます」（兎月つかさ）。

　「つかさのフォロワーの半数が海外の方です。また、完全受注生産でオリジナルTシャツの販売を行ったのですが、関東エリアからのご購入もあり、新しいご縁が広がっているなと感じます」（宮崎なつ樹）。

　兎月つかさの成長過程を見守る――これを1つのコンテンツとして提案することで、mecに新たな需要が喚起され、同社が運営するイベントスペース「天神ポケット」に、新たな客層を呼び込むことにも成功している。無論、簡単に真似できるものではない。

　人材を確保すること以上に、人材を定着させることは困難を極めるからだ。人材と、受け入れ側の企業。双方に歩み寄る姿勢がなければ、成長は見込めない。最後に、兎月つかさに質問してみた。「この会社に入って良かったと思いますか？」。彼女は力強く「絶対に良かったと思います！」と答えてくれた。

【代　源太朗】