2024年03月29日( 金 )

人生100年時代の未病医学 高齢者に無理な塩分制限、ダイエットは必要ない(前)

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名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科 教授 下方 浩史 氏

心不全や高血圧は減塩し、慢性腎臓病はタンパク質も制限する―。こんな常識も高齢期のフレイルには通用しない。減塩は、食事を味気ないものにして食欲低下を招き、タンパク質制限は、筋肉量減少やサルコペニアのリスクがあるからだ。名古屋学芸大学大学院の下方浩史教授は、「栄養状態や病態を総合的に評価して、改善策を選ぶことが必要」と指摘。無理な塩分制限、ダイエットは必要ないと言い切る。

未病対策の課題はフレイルへの介入

 今までは、せいぜい70年、80年で人生設計が考えられていましたが、これからは100年の人生設計を立てていかなければなりません。実際に100歳以上生きる方はどんどん増えています。リンダ・グラットン氏の著書「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略」には、日本で2007年に生まれた子どもたちは、半数以上が107歳まで生きるだろうと予測しています。

 平均寿命は、毎年0.2歳ずつ伸びていますから5年で1歳、10年で2歳延びていることになります。50年後には10歳延びているわけですから、今50歳の人は半分が100歳まで生きることになります。今の70歳、80歳の方はアクティブな方が多いように見受けられますが、100歳近くになれば、特定の病気がないにせよ徐々に身体が弱まりフレイル状態になっていくでしょう。これからは病気があっても元気な人と、病気がなくても元気がない人にわかれていくかもしれません。歳を重ねれば血圧や血糖値は高くなりますので、まったく病気がない人はいませんが、元気であれば良いのです。

 問題は元気のない人です。こういう人はフレイル状態になりやすく、ゆくゆくは要介護となってしまう危険があります。ただし、フレイルの人に食事や運動を適切に指導すればもとに戻ります。つまり可逆性があるのです。ですから我々は未病対策のなかでも重点的に取り組まなければならないのは、フレイルへの介入だと考えています。とくに問題なのが女性のサルコペニアです。女性はもともと筋肉量が少ないので、食が細くなって筋肉量が減っていくと転倒しやすくなります。大腿骨を骨折すればそのまま寝たきりになる場合もあります。

 これを防ぐためには食事に気をつけ、運動を心がけることが大事ですが、女性は閉経後にエストロゲンが減って膝や腰に変形性関節症が出やすくなるので、運動をしたくても運動できない人が多いのです。こういう方々をどうサポートしていくのか、それが未病医学の大きな課題でもあります。

(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
下方 浩史(しもかた・ひろし)

1977年名古屋大学医学部卒業、医師免許取得、82年名古屋大学大学院博士課程満了(第3内科)、83年医学博士(名古屋大学)、日本内科学会認定内科医、老年病専門医、臨床栄養指導医。専門は老年医学、栄養疫学、予防医学。
名古屋大学医学部附属病院医員などを経て、86年より米国国立衛生研究所(NIH)、国立老化研究所(NIA)。90年より広島大学原爆放射能医学研究所の疫学・社会医学研究部門助教授を経て、96年より国立長寿医療研究センター疫学研究部長、予防開発部長。2013年4月から名古屋学芸大学大学院教授、14年4月から研究所長。

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