2024年03月29日( 金 )

人生100年時代の未病医学 高齢者に無理な塩分制限、ダイエットは必要ない(後)

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名古屋学芸大学大学院 栄養科学研究科 教授 下方 浩史 氏

未病の概念を普及させたい

 未病というと漢方をイメージする人が多いですし、胡散臭いと感じる人もいるでしょう。業者のなかには「これさえ飲んでいれば身体の調子が良くなる」といったイメージ戦略で健康食品などを売るケースがありますので、こうした営業トークが胡散臭さを助長しているかもしれません。基本は筋肉をつけて骨を丈夫にして、きちんと動ける身体をつくること。これがフレイル対策の原則です。

 それと注意しなければならないのが糖質制限食です。高齢者にとって糖質制限食は最も良くない。高齢者がやると体調を崩してしまいます。絶対やめたほうが良いです。また脂は、ある程度摂らなければなりません。もちろん摂り過ぎはダメですが、日本動脈硬化学会では飽和脂肪酸をある程度摂らないと、脳出血の原因になるといっています。

和食は高齢者にとって理想的な食事

 一番良いのは、伝統的な和食です。和食は塩分が多く、カルシウムが摂りにくいのが難点ですが、高齢期になってからカルシウムを摂ってもあまり意味がなく、逆に高齢期にカルシウムを摂り過ぎると、がん、心筋梗塞の原因になる場合もありますので、カルシウム不足はあまり気にかけなくてもよいでしょう。

 また、日本食の特徴は大豆製品と発酵食品が多いことです。大豆には、大豆イソフラボンという抗酸化作用の強い成分や食物繊維が豊富に含まれていますし、味噌、醤油、納豆などの発酵食品は善玉菌を優位にして腸内環境を整える働きがあります。脂肪の摂取量が比較的少なく、炭水化物が多い日本食は、高齢者にとっても理想的な食事ですから、肉ばかり食べないで魚をもっと食べるようにしてほしいですね。

人生100年時代の未病科学

 私は11月16~17日に名古屋市内で開催される第26回日本未病システム学会学術総会で大会長を務めることになりました。本学会のテーマは、「人生100年時代の未病科学」とです。

 少し前までは、100歳まで生きる人は稀でしたが、日本人の平均寿命は伸び続けており、人生100年時代は目前です。寿命が延びた分、人生設計も100年スパンで考えていかなければなりません。と同時に、健康で元気に長生きしていくための対策として、病気になる前に予防する、「未病」が求められているのです。

 「LIFE SHIFT―100年時代の人生戦略」の著者、リンダ・グラットン氏は、「人生100年時代を生き抜くには社会の仕組みを大きく転換することが必要」と指摘しています。本学会には11の部会(医師、看護、薬剤、臨床検査、栄養、東洋医学、歯科、メンタルヘルス、運動、機能性食品、疫学情報地域)があり、それぞれの分野で「未病」の普及と実践に取り組んでいます。11月の学術総会では、各部会の成果や会員の研究成果、そしてシンポジウムや教育講演での最新の研究や活動の紹介などを通して、人生の100年間を健康に生きていくための方法を考えていきたいと思います。

(了)
【取材・文・構成:吉村 敏】

<プロフィール>
下方 浩史(しもかた・ひろし)

1977年名古屋大学医学部卒業、医師免許取得、82年名古屋大学大学院博士課程満了(第3内科)、83年医学博士(名古屋大学)、日本内科学会認定内科医、老年病専門医、臨床栄養指導医。専門は老年医学、栄養疫学、予防医学。
名古屋大学医学部附属病院医員などを経て、86年より米国国立衛生研究所(NIH)、国立老化研究所(NIA)。90年より広島大学原爆放射能医学研究所の疫学・社会医学研究部門助教授を経て、96年より国立長寿医療研究センター疫学研究部長、予防開発部長。2013年4月から名古屋学芸大学大学院教授、14年4月から研究所長。

(中)

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