2024年03月29日( 金 )

【医療専門家に聞く】100歳まで自分の足で歩く方法(後)

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下北沢病院 院長 菊池 守 氏

著書「100歳までスタスタ歩ける足の作り方」に紹介されているふくらはぎのストレッチ
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メンテナンスは足を見ることから

 自分の足をじっくり見ることも、足のケアでは大切だ。普段の生活では、時間をとって足を見る機会は少ないが、足を見て触って、コンディションをたしかめることから始めたい。毎日、歩いている時も立っている時も、体を2本の足が支えている。だから、いつまでも健康な足でいられるように、足をいたわってメンテナンスしたい。

 足のメンテナンスは、まず保温して、足の筋肉を動かして指先の血の流れを良くすることが大切だ。そして、むくみがあるときは、圧迫をしたりマッサージする。さらに、筋肉を保てるように運動をして、足が固くならないようにストレッチをする。

 足の裏のアーチを保つためには、足の裏の筋肉の力を鍛えることが大切だ。もし足の裏のアーチが落ちている場合には、インソールを使ってアーチを補う。また、歩くときには、足に合っていて足を支えられる靴を選ぶことだ。

糖尿病のときは?

 しっかり運動をして、足を清潔にしていたい。昔は1日1万歩といわれていたが、5,000人を10年以上にわたって調べた中之条研究(東京都健康長寿医療センター研究所)では、歩数によって、病気にかかるリスクがどれくらい減るのかがわかっている。同研究によると、1日8,000歩くらい歩いて、20分くらいしっかり体を使う運動をすると、一番病気にかかるリスクが低い。ヒザが痛くなるほど歩くことは足の健康にはあまり良くないので、控えたほうが良い。

 糖尿病が重くなると、腎臓や目、神経に病気が出やすくなる。腎臓が悪くなると透析が必要だし、目が悪くなると見えなくなるからと、腎臓と目のことは気にかける人は多い。

 だが、神経は腎臓や目と違って、悪くなっていても気づかないので注意が必要だ。たとえば、ねんざや靴ずれをしても感覚がないのでわからず、普段は靴を履いていて足は人から見えないこともあって、病院で靴を脱がせて足を見て初めてわかるということが起こる。重い糖尿病になると、足のケガや病気にかかるリスクが高くなり、1年に1万人もの人が糖尿病や動脈硬化で足を切断している。

 風邪やほかの病気とは違って、糖尿病はかかっていても気づかず、検査をして初めてわかる「バーチャル」な病気だ。では、糖尿病で足が健康でいるにはどうしたらいいのだろうか。普段から、キズがあっても痛くないことがないか、自分の足をチェックして、異常に早く気づくようにしたい。多くの場合は、糖尿病にかかったら血糖値をコントロールするので、足の病気になるほどまで重くはならない。だが、もし糖尿病で足の神経が悪くなったときは、足がピリピリしたり、足の感覚がにぶくなったり、ザラザラしたりする。こうなったら早めに病院に行くことが必要だ。

 もし、糖尿病で神経の感覚がなくなっている場合は、歩くときに気をつけてほしい。きつい靴を履いていても気づかないうちに靴ずれをしてキズがひどくなっていることがあるからだ。

足病医はなぜ日本になかったか

 なぜ、日本には足を専門で診る足病医がなかったのだろうか。日本の西洋医学は、ドイツ医学の流れを汲んでいるが、ドイツでは足や靴のトラブルついては靴屋が対応する文化があり、足専門に特化した医師はいなかったのではないかと言われている。だが、日本は下駄を履いていた昔の時代からいきなり靴を履く社会に変わったので、ドイツとは事情が違ってくる。そんななかで日本の医学教育には足や靴についての一般的なケアが抜け落ちてしまったのではないだろうか。

 一方でイギリスの文化を受け継ぐアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなどの国々は、歯科医のように足を診る足病医がいる。「足から健康を支える」というビジョンのもと、日本初の「足の総合病院」として、地域の看護や介護とチームワークを組みながら日本に足病医を広げることに、下北沢病院は取り組んでいる。

(了)
【取材・文・構成:石井 ゆかり)】

【INFORMATION】

下北沢病院内設備

下北沢病院
所在地:東京都世田谷区北沢2-8-16
TEL:03-3460-0300(代表)
FAX:03-3465-0565
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