2024年04月25日( 木 )

浦江をここ数年で「中国一ゴミのない」県に再生させた政策科学の力!(4)

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立命館大学政策科学部教授 周 瑋生 氏

周 瑋生氏を挟んで、向かって(左)中川十郎氏、(右)張沖氏
周 瑋生氏を挟んで、向かって(左)中川十郎氏、(右)張沖氏

今までまったく経験できなかったチャンスを提供します

 周 張社長の会社では約800名いる清掃員に対し、ユニークな福利厚生を行っています。中国の社会では清掃員の地位がとても低く、多くは社会の最下層の人たちです。結婚していても、結婚式など挙げたこともなく、ましてやきれいなドレスで着飾った経験などありません。

 そこで、結婚衣装で着飾った2人を写真館で撮影、ほかの清掃員の男女も着飾ってそれぞれのポーズで写真撮影するなど、今まではまったく経験できなかったチャンスを提供しています。ある清掃員(71歳)はインタビューで「私は死ぬまでこの仕事を続けたい」と語ったと聞いています。このように、一見関係なさそうなことが政策的に結びつき、社会効用の最大化を図り、双方の幸福を最大に生み出すことにつながるのも、政策科学の醍醐味といえます。

 中川十郎氏(以下、中川) それはすばらしいことですね。日本の方にはわかりづらいと思いますが、インド、インドネシア、ブラジルなどでも状況は同じで、もの凄い差別があります。たとえば、インド(カースト制度)では、同じ清掃員でも、テーブルを拭く者、床を拭く者、トイレを掃除する者はすべてわかれており、身分が違うのです。

浙江省では“地産地消”のようなこだわりはありません

 ――少し話を転じます。地方自治体の「まち興し」に関する件です。日本の地方自治体は、まち興しをする場合は“地産地消”的なものに強くこだわります。しかし、浦江は水晶ガラスの原材料がまったくないのに「中国最大の水晶ガラス製品生産販売基地」(全国シェア70%)となっていました。

 周 中国、とくに浙江省では“地産地消”のようなこだわりはまったくありません。それは、中国国内を含めて世界に売ることを考えているからだと思います。

 たとえば、近くに「義烏(イーウー)」市があります。今義烏は日本および世界の「100円ショップの里」と言われています。しかし、彼らはもともと商売がうまく、器用で、勤勉だっただけです。また、同じく中国で最も革製品の有名な「海寧(ハイニン)」市では超巨大な革製品専門のショッピングモールが数多くあり、中国全土の革製品専門の最大の集散地となっています。しかし、海寧には高給毛皮となる動物は一匹もいないのです。

10月に王岐山副主席、2020年春には習近平主席が来日

 ――時間になりました。団長、名誉団長に、今回の日中生態都市視察団の総括をしていただくとともに、読者へのメッセージをいただきたいと思います。

 周 今回は短時間で視察団を構成したにもかかわらず、中川先生のご尽力ですばらしい団員の方々にご参加いただき感謝いたしております。浦江県のような都市と農村という二元構造のまちづくりは、今後中国が安定して成長していくにあたってとても重要です。

 今浦江県は全中国の先頭に立つモデル都市となっています。今回は従来視察ではほとんど行かない、中国の農村部を見ていただけたこともとてもよかったと感じています。今後は「環境」や「医食同源」などをテーマにプロジェクトが進んでいくことを願っています。そして、このプロジェクトで最も重要なことは、いかなる場合も日中双方が「Win-Win」になることです。どちらかに偏ったプロジェクトは政策とは言っても、政策科学とは言いません。

 読者へのメッセージですが2つあります。1つは、今中国は激動しています。日本の皆さまには、ご自身の目で生の中国を見て欲しいと願っています。もう1つは、日本と中国は地理的に、一衣帯水であり、歴史的にも互恵補完を構築できる関係にあります。ぜひ、今後とも友好互恵な関係を保っていきたいと思っております。

 中川 商社マン時代、海外に20年間駐在し60数カ国300都市に出張し、貿易に従事、さらに訪中50回を超える経験から判断しても、この浦江県プロジェクトは必ずや成功すると信じています。本日も、帰国から3週間で、視察団員を含む30人の有識者が立命館大学東京キャンパスに参集、張沖社長にも来日いただき、建設的かつ具体的な議論が展開されました。これは偏に周先生の人徳によるものと感じております。10月には王岐山副主席が来日、2020年春には習近平主席が国賓として来日されます。今まさに日中関係は雪解けの時にあります。本プロジェクトもその流れに乗って、順調に推移していくことを願っています。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
周 瑋生氏(シュウ・ウェイション)

 1982年浙江大学工学部熱物理工学専攻卒(工学学士)、1986年大連理工大学大学院動力工学科専攻修了(工学修士)、1995年京都大学大学院物理工学科高温物理工学専攻(工学博士)、1995年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員として(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)に勤務(研究員)、1998年RITE主任研究員、1999年立命館大学法学部准教授、2000年立命館大学政策科学部准教授、2002年から現職。

 これまでRITE研究顧問、立命館孔子学院初代学院長(現在名誉学院長)、立命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)初代センター長、大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、東京大学大学院原子力国際専攻客員研究員、浙江大学、大連理工大学、北京大学、上海交通大学、同済大学、中国浦東幹部学院、四川大学など複数大学の客員教授を併任。全日本華僑華人聯合会名誉会長(初代会長)、日本浙江大学校友会名誉会長(初代会長)、日中発展促進会会長など日中関係で数多くの要職をもつ。

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