2024年04月25日( 木 )

住みながら健康になる 建材・インテリアを工夫した健康住宅(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

段差があるほうが下半身の筋トレになる

 一般に健康住宅というと、バリアフリーや無垢材などの自然素材を使った住宅というイメージがあるが、これとはまったく違った視点から家づくりを行うのが、「100歳住宅®」を開発した(株)マツドットコムアイエヌジー(本社:愛知県豊明市、松本昇社長)だ。同社のインテリアデザイナー、松本佳津さんは、「素材だけでは片手落ちです。建材はハードですが、当社はインテリアというソフト面からアプローチしています」と話す。

 同社では、100歳まで自立して暮らせるようにと、トイレは出入りのしやすさを優先し、あえて扉を設けず出入り口を広く取ってオープンにするなど、100歳のほうが動きやすい空間づくりを行う。高齢者住宅に普及しているバリアフリー対応については否定的だ。その理由について松本さんは、「ある程度の段差があっても住み慣れてくれば、体が動線に慣れていくので、さほど苦にならずに乗り越えられるようになります。むしろ段差があるほうが下半身強化の筋トレになります」と説明する。

高齢者施設の課題はヒートショック対策

 一般の住宅にとどまらず公共施設の健康空間づくりを提唱するのは、(一社)健康・省エネ住宅を推進する国民会議(理事長:上原裕之氏)。国民会議は、理事長・上原氏が1993年に立ち上げた「NPO法人シックハウスを考える会」が母体となって2012年に設立された。歯科医師である上原氏が住環境の問題に取り組み始めたのは自身の体験がきっかけだった。

 1993年12月に、自宅兼診療所を新築して入居したところ、家族、医療スタッフに「目がしみる」「気分が悪くなる」という症状が出始めたため、方々に問い合わせて調べた結果、建材の合板に使われているホルムアルデヒドが原因であることがわかった。この時のことを上原氏は「専門機関に依頼して自宅兼診療所の測定を行ったところ、工場なら労働基準監督署の改善命令が出る0.5ppmとほぼ等しい0.49ppmの測定値が出たのです」と振り返る。

 そして、上原氏は医師会・大学・建築団体と連携して「シックハウスを考える会」を設立して日本初の疫学調査に着手。関係省庁・企業の技術者との積極的な意見交換や研究を重ね、2003年に建築基準法の改正によるホルムアルデヒド規制につなげた。

 「建築基準法改正は我々の運動に端を発したものと自負しています。化学物質の次に取り組む問題として、住宅の温度差、低室温をターゲットにしました。理由は、高齢者のほうが冬場に風呂場でヒートショックが原因と見られる死亡事故が増えているからです」(上原氏)。

 シックハウス問題から、住環境全般の健康づくりに活動を広げるため、会の名称を「(一社)健康・省エネ住宅を推進する国民会議」に変え、地域包括支援センターなど介護施設の断熱性能向上に取り組んでいる。

 「高血圧の高齢者にとっては、室内の温度差が大きいことでおこるヒートショックは極めて危険ですが、要介護老人が入居する施設はその対策が遅れています。バリアフリー対応では国の補助金が出るようになりましたが、断熱施工については、国は根拠がないとして取り合ってもらえません」(上原氏)。

 上原氏は、医療関係の人脈をつてに日本医師会の協力を得てヒートショック対策のネットワークづくりを進めている。

(了)
【取材・文・構成:吉村 敏】

(前)

関連記事