2024年04月20日( 土 )

企業再生のキーワードは「多様性」~ラグビー日本代表と資生堂の共通点(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

組織の分権と経営のグローバル化で再生

 魚谷氏は、いかにして資生堂ブランドを再生させたか。資生堂はほかの大企業と同様、典型的な日本企業である。日本企業はヒエラルキーがあり、中央集権的な縦割り構造だ。魚谷氏は、より現場に権限を移譲した分権的な組織体制にすることを目指した。

 魚谷氏は就任後、延べ6万人以上の社員と対話。現場の販売員の要望に応じて、予算の権限を販売現場に委譲した。本社がコントロールしてはビジネスができないと考えたからだ。

 グローバル化を進めるため海外事業の拡大にも力を入れた。16年に欧米や中国など6つの地域本社を設置。各地域本社は同業他社などからヘッドハンティングした現地人材を幹部に登用。現地に権限と責任を与え、各地のニーズに即したマーケティングを進めた。

 ボーダレスマーケティングは、魚谷氏が最も得意とするものだ。中国人観光客に焦点を当て、日本で「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポーボーテ」といった高価格化粧品を手にとってもらい、帰国後、中国で購入してもらうというのがボーダレスマーケティング。これが奏功し、中国事業が資生堂の業績を牽引した。

 資生堂は中国の消費者の人気ブランドだ。2018年11月11日(通称:独身の日)に、中国最大の通販サイト運営会社アリババグループが開催した「11.11 グローバル ショッピング フェスティバル」において、資生堂は「中国の消費者に選ばれる越境ECブランドランキング」で1位を獲得した。アリババ集団は、人気ブランドの資生堂と提携して、化粧品の共同開発に乗り出した。

 魚谷氏はグローバル化を加速するため、18年10月、本社部門の公用語を英語にし、グローバル人材を育てる拠点を、シンガポールなど海外3カ所に置いた。年間4,000人程度を受け入れる。また、海外企業が先行するデジタルマーケティングを充実させ、各国の人材が入り交じってのディベートやチームワークの訓練を行い、英語のコミュニケーション能力を高める。

多様性はビジネススクールで身に付けた

 魚谷氏が積極的なマーケティング改革やダイバーシティー(多様性)経営を推進するのは、若かりし頃の米ビジネススクールへの留学がある。ライオンに入社2年目という異例の速さで留学試験を受けることが認められ、3年目で米国に留学することになった。

 魚谷氏はニューヨーク市マンハッタンにあるコロンビア大学にマーケティングを学ぶため社費留学した。日本経済新聞社と日経BP社が共同運営している情報サイト「NIKKEI STYLE 出世ナビ」(2016年6月27日付)のインタビューに登場した魚谷氏はビジネススクールで、タイバーシティー(多様性)が身に付いたと語っている。

 〈ビジネススクールには、いろいろな価値観を持った人が大勢集まってきます。そういう人たちの中に身を置くと、例えば、日本の感覚ではやってはいけないとされることでも、実はよく考えるとそれを禁止するルールではなくて、自らの自由な発想や創意工夫で何をやってもいいのだという気持ちになります。これこそがイノベーションの源泉であり、ダイバーシティーを推進する一番の利点だと思います。

 同じ価値観の人間だけが集まっても、イノベーションは起きません。コカ・コーラからの経験からも言えることですが、日本では「今までずっとこうやってきたのだから、これからも同じやり方を続けるべきだ」という論理になりがちです。

 しかし、欧米では、この言葉を一番嫌う。禁句です。今までこうやってきたてからといって、なぜこれからも同じやり方を続けていかなくてはいけないのか。やり方を変えればさらに良いものが生まれるのではないかいうのが彼らの自然な発想です。

 資生堂でもダイバーシティーにより、イノベーションとグローバル化を推進していきたいと考えていますが、その発想、視点の原点は、まさにビジネススクールでの2年間の経験でした。それがなかったら、今の私はなかったと断言できます〉

 資生堂の再生、ラクビー日本代表の躍進をもらしたキーワードは「ダイバーシティー(多様性)」にあった。

(了)
【森村 和男】

(前)

関連記事