2024年04月20日( 土 )

香港が中国経済にとって重要である理由

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 香港の反政府デモに対し、中国政府がいずれ力ずくで抑えつけるのではないかと懸念される。しかし、一国二制度の下で中国大陸とは異なる法制度が適用される香港は、中国のほかの都市には代替できない価値を有しており、中国が大きく発展した今日においても、香港は中国から世界への投資の窓口としての役割など、依然として中国経済にとって大きな役割をはたしている。

中国への窓口から、中国の「世界への」窓口へ

 上海市などの経済規模が香港のそれを超え、また深圳市などがイノベーションで注目を集めており、香港経済の中国経済に対する存在感は大きく低下している(1993年には香港のGDPは中国のGDPの27.1%に相当したが、2018年には2.7%にまで低下)。しかし、香港は一国二制度の下で中国大陸とは異なる法制度が適用され、司法の独立、表現の自由が保障されており、外国企業にとって中国で最も安心して経済活動が行える環境である。従来、外国企業が中国進出にさきがけて香港に拠点をつくり、そこから投資をするというスキームが活用されている。香港はいわば中国への窓口となってきた。

 近年、中国の対外直接投資額が外国からの投資受入額を上回るにつれて、中国の対香港投資額も香港の対中国投資額を上回る状況となっており、香港は中国の「世界への」窓口としての側面も強めている。

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 まず香港の対中国直接投資(表1)から見る。対中国直接投資において香港からの投資が毎年70%以上を占めており、中国への投資が主に香港から行われていることが分かる。香港の法人税、個人所得税の低さ、会社設立のしやすさ、人民元の調達のしやすさなどから外国企業が中国への投資を香港経由で行っていると言われている。

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 中国政府は近年、経済発展の内実をより重視しており、受け入れる投資の性質に変化が見られる。産業のグレードアップのための技術・ノウハウをともなう投資、消費の促進のためのサービス業への投資などを好む姿勢を見せているが、香港企業の対中国投資においてもそのような案件が増えている。

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 反対に中国の対香港直接投資(表2)について見ると、金額で香港の対中国直接投資額を上回っている。中国企業が香港に拠点を設置し、そこから外国に投資を行っていることが分かる。

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 中国―香港間の輸出入(表3)を見ると、香港にとって中国は輸出の50%以上、輸入の40%以上を占めるパートナーである。香港を中継港とした中国との貿易には、たとえば中国・香港の経済連携緊密化取決め(CEPA)に基づき、香港の対中国輸出には外国の対中国輸出とは異なる優遇された関税が適用されるというメリットがある。このように、香港の存在が中国の投資・貿易を増やしている。

粤港澳大湾区構想における香港の役割

 現在中国政府が進める広東・香港・マカオグレーターベイエリア構想においても香港の役割は大きい。2019年2月に発表された計画綱要は、香港の役割を、国際金融、海運、貿易センターおよび国際航空ハブ、オフショア人民元ハブ、イノベーション・科学技術事業の発展を促すことなどと定めている。中国の都市にこれらの役割がすべて代替できるとは考えにくい。

 とくに香港はアジア最大の金融センターであり、香港区議選後の11月26日、中国Eコマース最大手のアリババグループが香港証券取引所に株式を上場し、時価総額は4兆香港ドル(約56兆円)を超え、同取引所の最高額を記録した。

 フィナンシャル・タイムズは9月、個人投資家が香港で所有する金資産をシンガポールなどに移していると報じている。中国政府が解放軍を香港に投入するとなると、進出している外資は避難あるいは撤退、新規投資も減少し、中国経済にも影響を及ぼすであろう。

【茅野 雅弘】

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