2024年03月30日( 土 )

リクルートキャリアのリクナビ問題は~人材データの利活用のあり方が問われる事態に飛び火(前)

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 就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、サイトに登録した就職活動中の学生の「内定辞退率」をAIで予測し、企業に販売していた。この問題は、個人情報保護の観点だけでなく、人材データ利活用のあり方が問われる事態に発展した。

トヨタや三菱商事は学生の情報をリクナビに渡していた

 就職情報サイト「リクナビ」の閲覧履歴にもとづく内定辞退率の予測が提供されていた問題で、政府の個人情報保護委員会は12月4日、利用していた全37社に行政指導し、サイトを運営するリクルートキャリアに2度目の是正勧告を出した。

 指導を受けたのは、トヨタ自動車や三菱商事、三菱電機、JFEスチールなど日本を代表する大企業ばかり。各社は内定辞退率の予測のため就活中の大学生の情報をリクナビ側に渡した。問題になったのは、本人には不利益となりかねないのに、その目的を十分に知らせないまま、情報をやり取りしていたからだ。

 保護委がここまで大規模な行政指導に踏み切るのは珍しく、対象社名を公表するのは異例だ。同意なく辞退率が提供された学生は2万6,000人に上る。今回の指導は「制裁」の面が強い。

 問題の発端となったリクルートキャリアと親会社のリクルートホールディングスは指導より重い「勧告」を受けた。リクルートキャリアは8月に続いて2度目の勧告となった。

AIの応用でビッグデータ解析がカネを生む

 リクルートホールディングス(以下・リクルート)グループは、就職・転職や旅行、住宅、結婚式場、中古車などあらゆるビジネスを情報にするのがビジネスモデルである。情報の巨人であるリクルートは、今、AI(人工知能)企業に大変身中だ。

 リクルートは情報の宝庫である。企業情報、求人情報、物件情報、結婚式場情報など膨大で多様、かつ絶え間なく増え続ける「ビッグデータ」がある。これまでは、過去の蓄積された情報がカネを生み出すことはなかった。はっきり言って、”粗大ゴミ”の類だ。

 しかし、AI時代の到来のより、対話や自然言語処理、画像認識、ビッグデータ解析などの分野で応用が進んだ。

 ビッグデータがカネの成る木に化けた。千載一遇のチャンスを見逃す手はない。AIでビッグデータを分析し、収益を生み出すことができるのだ。リクルートはビッグデータを利活用するAI企業に大変身中である。

内定辞退率データを年間400~500万円で販売

 リクルートキャリアは、リクルートの人材採用事業であるHRカンパニーと日本最大級の転職エージェント(代理人)であるリクルートエージェントとの統合により、2012年10月に誕生した。事業の柱は、個人のキャリアと企業の人材戦略に向けた支援サービスだ。

 同社のホームページによると、資本金6億4,335万円、取扱高1,393億円、従業員4,600名(19年3月期末)。小林大三社長はリクルートの生え抜きで、17年にリクルートキャリアの社長に就いたが、リクナビ問題で2回の勧告を受け、引責辞任は免れない。

 リクルートキャリアは2018年3月から、就活学生が就職情報サイト「リクナビ」内で興味のある企業を閲覧した情報を収集し、AIで分析、選考活動や内定を辞退する確率を5段階で評価する「リクナビDMPフォロー」というサービスを有償で販売した。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)とは、ネット上に蓄積された自社の顧客データを統合するシステムのことだ。

 同社は辞退率データを年間400~500万円で販売した。37社と契約しているから1.5億~1.8億円の売上が立つ。内定辞退予測のサービスは、リクルートキャリア内からの評価が高く、社内で表彰されたこともあったという。リクルートキャリアが打ち出したニュービジネスだった。

(つづく)
【森村 和男】

(中)

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