2024年04月25日( 木 )

間違いだらけの大学英語入試~経済政策にひた走る文科省!(前)

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 大学入学共通テストに導入予定だった英語の民間試験は10月の萩生田光一文部科学大臣の「身の丈」発言(BS討論番組)であっけなく延期となった。しかし、火の粉は高校・大学関係者はもちろん、受験生を抱える両親にまで飛び火して、燃え上がる一方である。それは、英語の民間試験導入が、受験生50万人という巨大市場を教育産業に提供する「経済政策」であり、教育政策ではないことが暴露されたからに他ならない。

 小学校から始まる一連の英語教育改革、そして大学英語入試への民間試験導入に関して終始一貫警鐘を鳴らし続ける寺島隆吉・国際教育総合文化研究所所長・元岐阜大学教育学部教授に聞いた。同席は夫人の寺島美紀子・朝日大学名誉教授である。

国際教育総合文化研究所所長 寺島 隆吉 氏

逆説的ですが、萩生田光一氏に、最高の功労賞を差し上げたい

 ――本日は大学英語入試への民間試験導入に関して、いろいろとお聞きしたいと思います。まず、10月の萩生田文科大臣発言に関する先生のご感想をお聞かせください。

 寺島隆吉氏(以下、寺島) 私は大学英語入試への民間試験の導入に関して、さまざまな新聞・雑誌のインタビューや自分のブログ「百々峰だより」を通じて繰り返し、その中止・廃止を訴えてきました。しかし、大手メディアはこの問題を一向に取りあげようとしませんでした。本年6月には、京都工芸繊維大学の羽藤由美教授らが中心になって、この英語民間試験の延期を求める国会請願署名運動が行われました。一週間という短期間で8,100筆の署名が集まりましたが、この時も大手メディアは真剣に取り上げていません。さらに、7月には、全国高校校長会が延期をも含めた要望書を出したのですが、文科省はまったく聞く耳をもたず、大手メディアも注目しませんでした。

 ところが、萩生田文科大臣が「身の丈」発言をしただけで、中止には至らなかったとはいえ、延期になったのです。これまで文科省は、あらゆる反対意見に耳を塞いでいたのですが、文科大臣の思わず語った本音発言で事態は一転しました。逆説的な言い方ですが、私は萩生田光一氏に最高の功労賞を差し上げたいと思っております。

東大は「英語民間試験の点数を考慮する気はない」と発表した

 ――大学英語入試の現状を易しく教えていただけますか。どこが問題なのでしょうか。

 寺島 大学入試の「英語」について大きな問題点はありません。そもそもセンター試験は、30科目の試験問題をつくるために、全国から大学教員約500人(点検委員を含めれば約700人)が集められ、年間50日間、朝から晩まで問題の作成作業を行った、練りに練ったレベルの高いものです。英語の「スピーキング力」については、各大学が学部の必要性に応じて独自試験をすれば済む問題です。

 センター試験の質が問題にされることがありますが、その低下の原因は、むしろ経団連を初めとする経済界からの「会話!会話!」という号令・圧力のせいです。それでも「入試問題を読んで受験者が賢くなる」よう工夫されたものになっています。英語民間試験など必要ないのです。それを裏づけるように、東京大学ではすぐに「英語民間試験を東大受験の要件としない」と発表しました。「こんなものを利用する必要はない」と判断したのだと思います。

 しかしその後、すぐに発言を撤回して、「英語の民間試験を東大受験の要件とする。しかし、点数は見ない」という“摩訶不思議”な結論に至りました。これでは「受験生はお金を払って英語民間試験を受けてください。しかし、そんなくだらない英語民間試験は考慮するに値しないので、東大としては点数を見る気はありません」と言っているようなものです。この背景には、前言を発表後、東大総長を初めとする関係者が文科省に呼び出され、交付金や助成金減額等の脅迫を受けて今回の結論に至ったのではないか、と言われています。

 寺島美紀子(以下、美紀子) 「スピーキング」に先駆けて、「リスニング」(聴解力テスト)が導入されましたが効果は上がっていません。鳥飼玖美子氏(立教大学名誉教授・同時通訳者)は「現在行われている聴解力テストは電子機器を提供する企業を儲けさせているだけで、真の聴解力テストとしては役に立たない。なぜなら、真の聴解力はわからなかったら聞き返す能力だからだ」と述べています。私も同感です。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
寺島隆吉(てらしま・たかよし)

 国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり――富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて――9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)を初めとして多数の翻訳書がある。


寺島美紀子(てらしま・みきこ)
 岐阜・朝日大学名誉教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。

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