2024年04月19日( 金 )

日本版「#MeToo」裁判~女性蔑視・男尊女卑の日本社会(1)

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 ジャーナリストの伊藤詩織氏による「女性蔑視・男尊女卑の日本社会」への異議申立が本件性的暴行事件の訴えである。

 以下の議論の理解を深めるため、先に結論をいえば、加害者の弁解は完全に論理的に破綻している。それは極めて明解である。

 本件事件の争点は、ただ1点で、それは「合意」の有無である。しかし、決定的な客観的状況として、犯行現場にたどり着くまで、被害者は泥酔状態にあった。加害者のいう合意とは泥酔者相手の合意であり、そもそも法的には成立しない合意である。

1:あってはならない法的判断の不一致

 真実は1つであるから、それに対する法的判断も1つであって、不一致はそれ自体が違法犯罪の存在を推認させる。本件事件をめぐる法的判断には極めて重大かつ不可解な法的判断の不一致が存在する。以下時系列的に法的判断の各相を示す。

2:法的判断の各相

 本件性的暴行事件に関する法的判断は現時点まで以下の通りである。

第1相 捜査手続

(1)司法警察員の法的判断
(2)令状発布裁判官の法的判断

     捜査手続の異常終了

第2相 刑事告訴手続 

(3)告訴代理人弁護士の法的判断
(4)告訴状を受理した検察官の法的判断
(5)検察審査会の法的判断    

     刑事告訴手続の異常終了

第3相 民事訴訟手続き

(6)民事訴訟第一審裁判官の法的判断

 以上の各相について、性的暴行事実の存在を認めたのが(1)(2)(3)(6)であり、存在を否定したのが(4)(5)である。(5)以外はすべて法律専門家の法的判断である。

3:問題点の指摘

第1相について

 (1)伊藤氏は犯罪被害について司法警察員に被害を申告し、司法警察員は組織的に適切に対応し、必要な捜査を行い、刑事犯罪の専門家集団としての判断で、犯罪事実を確認して逮捕令状の発布を裁判所に請求した。

 (2)逮捕令状の発布請求を受けた令状担当裁判官は、逮捕の必要性等の法的要件を添付資料などにより判断し、逮捕状を発布した。当然犯罪事実を認定している。

 以上の適法な逮捕状の発布が実際には執行されなかった。これが第一の異常事態である。

 逮捕状の発布を受けた司法警察員は、正当な理由なく、逮捕状の執行を中止できるか、の問題である。逮捕権は司法警察員に授与された自由裁量権や特権でも何でもない。司法警察員が自由にその執行を選択決定できる権利ではなく、職務上、執行すべき義務がある。従って、その不執行が正当な理由がないものであれば、司法警察員の職務義務違反の問題が生じる。

 報道によれば、逮捕状の執行はその直前になって、内閣審議官・中村格氏の命令によって、中止されたという。司法警察職員の具体的捜査業務に内閣審議官の指揮命令権の根拠規定はないから、中村格氏は警察組織上の上司として部下の司法警察員の捜査業務を指揮命令したことになる。そうであれば、中村格氏はその執行中止の正当な理由を公表しなければ公務を私的に濫用したとの非難に値する。

 現在まで、裁判官が逮捕状を発布した逮捕の必要性を否定するだけの理由が中村格氏から公式に発表されていない。警察組織を中村格氏は私物化しているとの非難に値する。国民の目であり耳である報道機関は中村格氏に正当な理由の開示を求めなければならない。逮捕状の請求を行った警察組織がまた一方的に逮捕状の執行を正当な理由なく中止した例は過去には存在しない。

第2相について

告訴状の提出

 本件事件では警察が被害届を受理し、適正な捜査を行い、犯罪事実を証拠資料に基づき確認して逮捕状の請求を行い、裁判官も犯罪事実と逮捕の必要性を認めて逮捕状を発布した。

 しかし、報道によれば、逮捕直前になって、警察組織の上層部である中村格氏の命令によって逮捕状の執行が中止されたという異常な経緯が発生した。

 この為、前例のない法律問題を生じた。警視庁は当該事件を送検すべきか否かである。

 逮捕は公訴提起や追加的捜査の必要性(逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれ)から判断される身柄拘束の必要性の判断であって、警察の法的義務である、送検義務とは一応無関係である。

 しかし、警察は送検自体を行わなかったため、検察は何もしなかった。本来なら、逮捕の必要性がないだけなら、書類送検、在宅起訴が通常である。ここにも、異常な刑事司法の醜態が存在する。警察は、自ら捜査して犯罪事実を確認しておきながら、たまたま警察組織の上層部にいた中村格氏の判断で、犯罪事実の存在まで否定してしまった。これでは警察は適正な司法権執行国家機関としての体をなしていないとの非難に値する。

 以上の結果、犯罪被害者としては、検察に直接、告訴する他なくなった。告訴状など、その様式内容などについて国民は何の知識素養もない。当然、法律の専門家に相談する。相談を受けた弁護士は依頼者から詳細な事情を聴取して、犯罪事実を証拠資料により確認して法律の専門家として受任し、適法適切な告訴状を作成して、検察に提出した。

(つづく)
【凡学 一生】

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